『剣遊記15』 第三章 無人島、バカンス三昧! (15) 「えっ! なしてっ!?」
「うわっち! そーゆーことけ☻」
友美の顔が、一瞬にして真っ赤となった。また、いつもは勘のにぶさを自覚している孝治も、今の状況を、はっきりと認識。すぐに声に出して言った。
「涼子っ! 千秋ちゃんに自分の姿ば見せたっちゃね!」
涼子がコクリとうなずいた。
『うん、そうっちゃよ☺ もうここまでバレてしもうたら、もうこれ以上隠してもしょうがなかっちゃけね☕』
ついに――と言うか、涼子が初めて、孝治と友美以外に自分の姿を公開した場面であった。これも貴重な、歴史のひとコマとは言えないだろうか(大袈裟)。だけどその割に、彼女の口調は妙に、サバサバとした感じになっていた。
『千秋ちゃん、今まで隠しとってごめんちゃね☻ 実は今までずっと、あたしは孝治と友美ちゃんにくっ付いて、美奈子さんや千秋ちゃんたちといっしょに旅ばしよったと✈』
今の涼子の声も、千秋は耳に入れているはずである。ところが確かに驚いてはいるものの、千秋のビックリはすでに、別の方向へと移っていた。
「友美はんがふたりもおったんかいな? しかもひとりはマッパやなんて、いったいどゆことやねんな?」
「きゃん! 違うっちゃよ!」
なんだか話の内容があさってのほうを向いているような展開に、友美が大きな恥ずかしい思いをしているみたいだ。
「無理なかっちゃねぇ☻」
孝治は友美が慌てる理由を、すぐに理解した。ここでも鈍感は返上であった。
「ときどき慣れ過ぎて忘れるっちゃけど、友美と涼子は双子かっち思うくらい、他人の空似以上によう似とうけねぇ、千秋ちゃんが混乱するんも当たり前っちゃね⛑ ついでに言うたら、涼子が四六時中真っ裸なもんやけ、それが急に出てきたら、友美が全部脱いどうように見えるもんばい☠」
そんな孝治の解説の途中だった。千秋がようやく恐る恐るの足取りながら、ゆっくりと裸で立っている涼子の前に近づいた。
それから初めて、千秋が涼子に声をかけた。これこそまさに、千秋と涼子の初会話であった。
「あんた……もしかして千秋と千夏みたいに、友美はんとは双子なんかいな?」
『それは全然違うとやけどぉ……☻』
孝治の先ほどまでの解説は、千秋の耳にはまったく入っていなかったようだ。なぜならいまだに、彼女は友美との双子説にこだわっているようなので。それはとにかくとして、お互いぎこちない部分は、まあ仕方がない――と言ってもよいか。涼子は表情に苦笑を浮かべながらで、千秋にはっきりと聞こえる声で答えた。もちろん孝治と友美にも丸聞こえである。
『あたしの名前は曽根涼子✌✍ 実は幽霊なんばい♪ あっさり死ぬことになっちゃって、今は気楽な徘徊人の身分なんやけどね♫』
「こらたまげたわぁ♋」
さすがの野生児である千秋も、これにはビックリ仰天――と大袈裟に表現するほどでもなかった。一応は驚きのセリフをぬかしながら、さらに本物の幽霊を瞳の前にしながら、千秋の態度はまったくと言ってよいほどに落ち着いていた。
先ほどの恐竜たちとの遭遇と、ほとんど同じような感じでもって。
とにかく怯えも恐怖感も、彼女にとっては全然無縁な言葉――としか、孝治と友美には思えなかった。
この千秋の度胸には、孝治も改めて感心し直した。
「やっぱ、あの美奈子さんの一番弟子っちゅうもんやねぇ☻ ほんまもんの幽霊ば見て、いっちょもビビったりせんのやけ♋✌ ついでにこれば確かめる気はなかっちゃけど、たぶん美奈子さんかて涼子ば初めて見たところで、絶対に表情ひとつ変えんっち思うっちゃよ☻☺☻」 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |