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『剣遊記11』

第七章 グリフォンは野生に戻ったか?

     (3)

 福井市に到着してから、折尾は三台あるうちの牛車の内の二台と、コブウシを三頭。現地で売却した。そのお金を、道中をともにした場那個と雨森に報酬として支給し、一同はここで解散となった。

 

 なお、山から下りる間、帆柱と孝治も協力してコブウシを引いていた。その理由は最初は六頭いた牛の一頭が敵方のスパイであったため、一頭減とは言え帰りの道中は、実に難儀な道のりとなっていたからだ。

 

 と言うわけで、九州までの帰りの行程は、牛車一台に、それを引くコブウシが二頭の陣容。

 

「ほな、うちらはこれで✋ ほんまの仕事ではる石川県に参りたい、思いまんのやわぁ✈」

 

 福井市の宿屋で一夜を過ごした翌日、美奈子と千秋と千夏の三人は当初の予定どおり、孝治たちとは別行動になった。これは先に前述してあったとおり、金沢市の貴族からの依頼を請けている、お宝の鑑定へと赴くためである。

 

「それじゃあ、気ぃつけてくださいね♡」

 

「はぁ〜〜っい☀ 美奈子ちゃんとぉ千秋ちゃんとぉ千夏ちゃん♡ いつでもぉ気をつけてますですよぉ♡」

 

 友美に応えて元気良く右手を振る千夏に、孝治は口には出さない声を贈っていた。

 

(嘘吐くんやなか!)

 

 もちろんこの本音は、面と向かっては絶対に言わない。一生腹の中に収めておくつもり。

 

「別に気ぃつけんかて、あの三人やったら天下無敵っち思うっちゃよ★ そもそも今まで無傷で済まんかった経験ってあるとや? むしろ敵になった連中のほうが災難っちゃねぇ♐」

 

『それやったらあたしも同感っちゃね★』

 

 魔術師師弟の本性を知っている涼子も、孝治のうしろで、どうやら相槌を打っているようだった。彼女の声は聞こえていないであろうが、ここで浩子も会話に入ってきた。

 

「ねえねえ、あの美奈子さんって魔術師、そんなにずんねぇ魔術師たんか? あたしこええほどいっしょにおって、何回か魔術も見せてもらったども、あれでもあんが序ノ口なんしょ?」

 

 無邪気な態度で根掘り葉掘り尋ねてくれるハーピーに、孝治は思わずで苦笑を浮かべた。

 

「確かに序ノ口っちゃね☢」

 

 改めて振り返ってみれば、確かに孝治にとって美奈子たち三人組とは、いまだに『序ノ口』の部分でしか知らない、真に不可思議な存在なのだ。

 

 付き合いはけっこう長いはずなのに、なおもその全貌は計り知れず――そんなところであろうか。


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