『剣遊記11』 第七章 グリフォンは野生に戻ったか? (11) クアアアァァァッ!
「うわっち! な、なんねぇ!」
「こらぁ! 小太郎、いい加減やめんかぁ!」
折尾が右手で握っている手綱を振り切り、幼グリフォンの小太郎が、いきなり孝治の体に前から圧し掛かってきた。
幼獣とはいえ、そこは成長したサラブレッドの大きさにも等しい、怪物の端くれである。その体重は、言語を絶する迫力があった。
「うわっち! 重たかぁ! なしておればっかなついてくるっちゃあーーっ!」
小太郎の下敷きとなった孝治は、必死になってもがきまくった。だけど幼グリフォンは孝治の顔面を、ペロペロと舐めてくれるばかり。
「おれ、おまえになんもしとらんやろうがぁ! やきーおれに甘えんやなかぁーーっ!」
『ねえ、なして小太郎は、孝治ばっかにじゃれつくとやろっか?』
「さあ……わたしにもわかんない? どげんしてですかぁ?」
涼子から訊かれても、自分がわからない問いには答えられない。そこで友美は折尾に尋ねたのだが、豹顔の彼も、それとわかるほどの困惑模様でいた。
「自分にもわからん……ただ小太郎は、特に女の人……それもなぜか力強そうな女の人を好きになってしまう傾向があるみたいなんだ☆ だからキャラバン中は予定外に女の子が多過ぎて、正直『どうしようか?』と思ってたんだが……だから野生に戻すのは、もう無理と判断したんだが……☁」
折尾はため息を吐きつつ、それでいてどことなく、うれしそうな感じで友美に答えた。
「そげな根拠の薄か御託なんか並べんで、早よなんとかしちゃってやぁーーっ!」
折尾の解説中も、孝治は小太郎から舐められ続けていた。だからもう、顔中ベトベトのビトビト。こんな調子であるからして、端で見ているハーピーの浩子も、もろ困り顔の様子でいた。
「あたし、もうあにしていいか、あてこともねぇーべぇ! 沙織は帆柱さんからうっちゃられてヤケッパチになっとうべ、泰子は由香さんとケンカの真っ最中できもいっとうし、わんだらあじしたらいいっぺぇ!」
もはや翼を大きく広げ、グリフォンと孝治の周りをグルグルと、旋回飛行するしかないようだ。
けっきょく小太郎からなぜか気に入られている孝治の絶叫だけが、北九州の街中に、広く大きく轟き渡る結末となったしだい。
「もうおれはグリフォンなんか嫌っちゃあーーっ!」
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