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『剣遊記11』

第七章 グリフォンは野生に戻ったか?

     (10)

「うわっち! うわっち! なんねこれぇーーっ!」

 

 たちまち孝治は顔中唾液まみれ。思わずその場で膝をヘナヘナ落とすと、くちばしの向こう側から、なんだかなつかしい声がした。

 

「こらっ! 小太郎よさんかぁ! すまんすまん☁ ちょっと挨拶に来たんだけど、驚かせてしまったようだね☀」

 

 それは四人の女の子たち(孝治含む。ついでに涼子も――って、もはやいい加減ワンパターンだよなぁ☃)にとって、聞き覚えのあり過ぎな声だった。

 

 顔もヒョウだし。

 

「あっ、折尾さん! それにこれって……☟」

 

 友美がすぐ、現在までのところ一番新しい護衛仕事の依頼人に気がついた。また、それ以上に問題な動物についても。

 

「これ……このグリフォンって……もしかして小太郎ですかぁ? 福井の山ん中に逃がしたはずっちゃのに、なしてここに?」

 

 九州から遥かに遠く、北陸の山岳までわざわざ行って、そこで自然に戻したはずである幼グリフォンの小太郎が今、友美や孝治たちの眼前にいた。しかも折尾に甘えるような仕草で寄り添い、片時もノールのそばから離れようとはしなかった。

 

 そんなとまどい気味でいる友美の問いに、折尾が豹顔に苦笑じみた笑みを浮かばせた。今回永遠のテーマであるが、やはり表現がむずかしい。

 

「実は……こいつを野生に戻したと思ってホッとして、なんだか淋しい思いでいたらビックリしたことに、こいつが九州まで飛んで追ってきたんだよ☁ 自分たちのあとをどうやら、こっそりと追跡してたらしい……✈」

 

 折尾はそう言って、恥ずかしそうにトレードマークの野球帽を脱ぎ、右手で頭をボリボリとかいた。今さら念のため、顔はヒョウだが、両手両足はふつうの人間と同じである。

 

 とにかく折尾は、『困った』の感じを表に出していた。しかし本音のほうでは、小太郎が自分を慕って九州まで来てくれたことが、実はとてもうれしいのだろう。

 

「ほいでぇ、だけんがこれから、どうするつもりでんいぇー? まさかまた福井まで行って、山に放すっぺぇ? そりゃよいなもんじゃねえべぇ✁✃」

 

 自分たちもグリフォンの自然復帰で苦労をした浩子が、上目遣いで折尾に尋ねた。無論折尾は、彼女の問いにも苦笑気味だった。

 

「いや……こうまで人に馴れたことがわかったら、もう野生に戻ることは不可能だ✄ 不本意なんだが、もう自分のとこで一生面倒を見てやるしかない♐」

 

「それやったら、なぁ〜んだっちゃね☠ 今回の仕事は、けっきょく骨折り損っちゅうわけっちゃね☢」

 

 孝治はなんだかつまらない気分になって、足元の石ころを右足で蹴った。

 

「孝治、そげなこつ言うたら失礼っちゃよ☁」

 

 それをいつものとおり、友美がたしなめてくれた。

 

 でもって、最後に恒例ではあるが、定番のオチとなるわけ。


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