『剣遊記14』 第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。 (9) 孝治は点の瞳が、さらに微小化した気になった。友美の言うとおり日明を前にして、ティラノダコラがなんと、腰を下ろして『お座り』の姿勢を取ったのだ。
まるで愛犬の芸のような感じでもって。
「ほう、これはなんとも奇妙奇天烈な結末でおまんなぁ……♋」
「あんた……ほんなこつ今までどこおったとね?」
逃げる途中でいち抜けたをしていた二島が、ここでやや緊張気味である傍観者顔を見せていた。孝治の横目は無視をして。とにかく雑学と無駄知識であればなんでもござれ――であるはずの二島でさえ、この考えられない事態には、目の玉を大きく凝らしていたのだ。
「あれほど凶暴でおましたティラノダコラが、あれほど見事に従順な態度を取りはるやなんて、この私の記憶と経験、この長い耳を持ってしましても、お初にお目にかかる珍事でおますなぁ☆ 改めて思うんさかいに、あの日明博士といわれはるお方はいったい、何者と申せばよろしいんでっしゃろうなぁ♠♣」
「店長のお友達なんやけどぉ……二島さんかてそうっちゃろ☛」
「まあ、そうでんなぁ☻ まったく人様のことは言われへんもんでんがな☺」
孝治は瞳を前方で披露されている不思議な光景に向けたまま、驚きの吟遊詩人に言ってやった。しかし事態の進展は、これだけではなかった。
「ゆおーーっし! どうやら終わったようっちゃねぇ☀☺」
今回、登場の浮き沈み方の激しい荒生田が、ここでも大袈裟に、孝治たちの前に再び姿を現わした。もう何度も何度も孝治によって蹴りを入れられている惨状なのに、自慢(?)のサングラスには相変わらず、ヒビのひとつも入ってはいなかった。
「先輩……今度はなんですか?」
下に穿いているインスタントビキニ以外、いまだトップレス状態でいる孝治は両手で胸を隠しつつ、荒生田に訊いてみた。なんとなくこれにて話の終息性を感じる気持ちだが、まだまだ安心は禁物であるから。
無論ぬけぬけと、荒生田は答えてくれた。
「ゆおーーっし! まあ見てみい☜ 池田湖の謎のモンスターとやらも、あげんおとなしゅうなったろうが☻☛ オレはあの日明博士とたびたび話ばする機会があったとやが、なんとこのティラノダコラとか言うモンスターは、博士の古い友達やったみたいっちゃねぇ♪」
「うわっちぃーーっ!」
この驚きは、孝治だけではなかった。そばにいる友美と裕志、二島と涼子までが、孝治と同じような大きな驚きを表現してくれていた。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |