『剣遊記14』 第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。 (8) 「まあ、そんなにどえりゃあごとはぜるもんでないがや、孝治クン☻」
「あんた、なん言いよんね?」
右足を荒生田の顔面にめり込ませたまま、孝治は日明に顔を向けた。しかし当の日明の目は孝治を飛び越えて、遥か後方から走ってくるティラノダコラに向けられていた。
「博士、もんすたーガどんどんトコチラニ迫ッテクルンダナ。ソロソロ博士ノ出番ナンダナ」
言わなくてもわかっている緊急事態を、徹哉の頭部がのほほんと日明にほざいていた。
「で、これからどげんする気や!? 早よせにゃそのモンスターに追い着かれるとやけ!」
もはや孝治は現在トップレスである自分を棚に上げ、日明と徹哉の怪人コンビに噛みついた。ところがそんな孝治の右横では、友美と裕志と、それに二島も加えた三人が、ポカンに近い顔で立ち尽くしていた。
その理由はなんと――であった。ティラノダコラが孝治たちの一歩手前で立ち止まっていたからだ。
つまりが指宿の市街(の一部)を破壊した大怪獣が、さらに大暴れをしようかという寸前で、簡単に一時停止をさせられているわけ。これは世にも奇妙な信号ストップとは言えないだろうか。
とにかく一応、これにて役者がそろったわけであろうか。日明が堂々とした態度で、なんとティラノダコラの前に、のこのこと歩を進めたのである。
「うわっち! いくらなんでも危なかっちゃよ!」
孝治は肝を大いに冷やすような思いになって、日明相手にわめき散らした。
しかしなぜか、日明は強気だった。
「ぬわぁ〜〜にんも心配せんでええがんねぇ☻ このティラノダコラくんは、もう大暴れせんわさ☺ そうだがねぇ、徹哉クン✌」
「ハイ、博士ノオッシャラレルトオリナンダナ。博士ガイッショニイレバ安心ナンダナ」
いまだ頭と胴体が離れたまんまになっている徹哉がのほほん口調の、さらに上塗りを言ってくれた。
「うわっち?」
孝治は瞳が点の思いになった。そこを右横から、友美が日明とティラノダコラを右手で指差した。
「見てん! モンスターがおとなしゅうなっとうっちゃよ♋」
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