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『剣遊記14』

第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。

     (6)

「うわっちぃーーっ! 嘘っちゃろぉーーっ!」

 

 視界ゼロに近い有様の中で、孝治は大きな声を張り上げた。

 

 孝治たちは現在、逃げ込んだ建物の中にいるのだが、ティラノダコラが衝突した部分は、思いっきりの半壊状態。二階建て建造物の約半分が、見事に壊される事態となっていた。

 

 それでもなお、モンスターは生きていた。しかも恐ろしい両眼を孝治に向け、口からはポタポタと涎までも流していた。つまりがいまだに好色。

 

「こ、このスケベパワー……誰かによう似とうっちゃねぇ……♋」

 

 孝治はツバをゴクリと飲みながらでつぶやいた。

 

「みんな! こっから出るっちゃよ!」

 

 そこへ孝治の背中の方向から、友美が大きな声で呼び掛けた。その声に孝治と涼子と裕志も、ハッと振り向いた。徹哉はと言えば手に持っている自分の首の方向を、友美の声のほうへと向き変えていた。見れば建物の壊された部分の反対側には、やはり小さなドアがあり、そこから外へと出られるようになっていた。

 

『要するにこのビルって、空き店舗で入居者ゼロやったんやねぇ✍』

 

 涼子が孝治と裕志の頭上を浮遊しながら、訳知り顔のようにささやいた。現在発光球スタイルなので、どのような『訳知り顔』なのか、とても想像がむずかしい状況だけど。

 

「と、とにかく、早よ逃げるっちゃ!」

 

 建物の事情など、この際関係なし。孝治は友美の右手を再びガシッと左手で握り、彼女が見つけたドアへ駈け込もうとした。

 

 その背後でティラノダコラがが、さらに大きな雄叫びを上げた。

 

 グギョオオオオオアアアアアオオオオン!


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