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『剣遊記14』

第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。

     (5)

「ああーーっ! 目の前に建物がぁーーっ!」

 

 ここでパニックになり過ぎている裕志が、子供でもわかる事態を大声で叫んだ。その悲鳴のとおり、孝治たちの逃げ道はいつの間にか行き止まりの通行止めとなっており、前方に白い石造りである二階建ての建造物が立ちはだかっていた。

 

 だけれど人が通れないわけでもなし。小さいが入り口らしきドアがひとつだけあって、孝治たちを待ち受けていた。

 

「あ、あん中に入るっちゃあーーっ!」

 

 もはや深く考えている場合ではなし。孝治はド派手な大声を上げまくり。すぐに言われるまでもなしの感じで、裕志が真っ先に、小さなドアにバチンと体当たりを決行(魔術の使用を忘れている)。幸い鍵がかかっていなかったようなのでドアは簡単に開いたが、力の有り余った裕志が吸い込まれるようにして、建物の中に自分から突っ込んでいった。

 

「わひぃーーっ!」

 

 続いて友美と涼子もドアに飛び込み(涼子は今も発光球スタイル)、孝治も建物の内部へドドッと駆け込んだ。でもってお終いが、切迫感のまるでない徹哉であった。

 

「チョット遅レテシマッタンダナ」

 

 ちなみに建物の内部は完全になにも無い、空っぽの状態となっていた。それはとにかく、一応これにて、モンスターの視界から、獲物(孝治たち)が忽然と消えた格好。しかしこれしきの事態でスピードをゆるめないところが、やはり畜生ゆえの悲しさであろうか。

 

 グギャオアアアアアオオオオオン!

 

 自分の進行一直線を邪魔する建物に、ティラノダコラはなんの対処もできないようだった。

 

 つまりがブレーキがなし。そのままのスピードで、モンスターが二階建ての建物に突っ込んだわけである。

 

 ドッガァーーンと激しい破壊音が市内に轟き渡り、付近に濛々{もうもう}と埃と土煙が舞い上がった。


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