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『剣遊記14』

第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。

     (4)

「わあっ! うんだもしたんな(鹿児島弁で『見たことも聞いたこともない』)怪物じゃあーーっ!」

 

 指宿市の街に近くなった所で、最初にティラノダコラと遭遇した通りがかりの親父が叫んだ。

 

 この人物がいかなる意味があって登場したかなど、もうどうでもよし。それよりも街は、あっと言う間に大パニックの様相。この混乱を引き起こした張本人である孝治たちも、こちらはこちらで今や半狂乱の域に近い状態だった。

 

「しつこかぁーーっ! ほんなこつしつこかぁーーっ! いったいいつまで追っ駆けてくるとやぁーーっ!」

 

 孝治はもはや胸を隠さないといけない立場を完全に忘れ、トップレスのままで市内を堂々と疾走していた。

 

「し、知らんちゃよぉーーっ!」

 

 孝治に応える裕志の絶叫も、完全に鼻声の状態。その原因は孝治の胸丸出しに間違いなく、鼻血で声がフン詰まり気味となっていた。

 

「いつまでっち、たぶん孝治が服着るまでっち思うっちゃよ☢」

 

 友美も黒衣のまくれを気にしながら、一生懸命に走っていた。何度でも繰り返すが、なにしろ黒衣の下にはなにも着ていない状態。それでも裸と勘付かれないだけでも、孝治よりはずっとマシと言えたりして。

 

「そげなんおれかてわかっとうっちゃよ!」

 

 孝治は友美の指摘に、大声で応えてやった。しかし現実に、孝治には服を探して着る余裕などなかった。

 

 この間徹哉のみ、無言での疾走。

 

「きゃあーーっ!」

 

「怪物でごわすぞぉーーっ!」

 

 とにかく指宿の町は、もう上へ下への大騒ぎ。

 

「でな(鹿児島弁で『大変な』)ことになったでぇーーっ!」

 

 孝治たちの前方を、こんなときにしっかりしないといけない立場であるはずの衛兵たちが、我を忘れて逃げまどっていた。


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