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『剣遊記14』

第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。

     (23)

 なんだか訳のわからない部分も、あるにはあった。それでも一応、今回の冒険は、これにて終了と言って良いかもしれない。

 

「さっ、帰るっちゃね

 

 孝治は意気揚々と、大きな声で言ってやった。念のために記しておくが、着衣はすべて、きちんと済みの格好である(いつもの軽装鎧姿)。

 

「デハ、ボクモ帰ルヨウニスルンダナ。適切ナ報告ガデキソウナノデ、博士モ大イニ満足シテラッシャルンダナ」

 

 首の接合部分をセロハンテープ(どこから出てきた?)で巻いている徹哉が、相変わらずのポーカーフェイス😑ながら、孝治に同意をしてくれた。

 

 しかし同意をしていない者が、この期に及んで約二名。荒生田と日明であった。

 

「ゆおーーっしぃ……っちゅうわけに行くけぇ! こんまんまやったらオレたちゃ、ただの骨折り損のくたびれ儲けっちゅうことになるやないけぇ!」

 

「そうだがねぇ! このうわたくしの大研究の輝かしき象徴であるティラノダコラくんを、このままこのどこの馬の骨ともしれん別世界にてうしなえることがあっては、えれぁあおうじょうこくことになるんだがにぃ!」

 

『なんか……また始まったみたいっちゃね☹ わがままコンビの病気再発っちゃよ☢』

 

 こちらも人型に戻っている涼子が、孝治と友美にしか聞こえない声でささやいた。その涼子の口調には、『もうウンザリっちゃ☠』の要素が、充分以上に含まれていた。

 

「もうええけ、ほっとくっちゃよ☻」

 

 孝治はもはや、先輩も博士も相手にする気はなし。先頭に立って、池田湖から北九州市への帰路に足を向けた。

 

「そうでんなぁ 私も早よう、伝承歌の作詞作曲に励みたいとこでんがな♪

 

 有り難いことに、二島も孝治と同じ考えのようでいた。もちろんこのままで話が終わるなど、この物語では有り得ない展開でもある。荒生田が猛ダッシュで飛び出し、北の方向へ行こうとしている孝治たちの前に、両手を大きく広げて立ちふさがった。

 

「駄目駄目駄目っ! 冒険ば一からやり直し! このオレのサングラス😎が黒いうちは、おめえらのわがままなんちずえったいに許さんけね!」

 

「わがままはどっちっちゃねって……先輩、もうええ加減に目ば覚ましてくださいっちゃよ

 

 孝治は猛獣を扱うような気持ちになって、自分でも珍しかねぇ〜〜と思えるほど、正面から先輩に歯向かってやった。

 

「もうティラノダコラはこれからおとなしゅう池田湖で静かに暮らすとやし、あの心中カップル幽霊も池田湖の精霊みたいになって、みんなの幸福と平和のために尽くしてくれるとらしいですから、おれたちの出番はもうなかですよ やきー、きょうはもう帰りましょうばい

 

 それでもなお、荒生田は往生際が悪かった。

 

「だぁ〜め駄目駄目っ! オレが認めにゃ話は終わらんと✄ 孝治っ! てめえいつからオレに、そげな立派な口が言えるようになったとや♨」

 

「そ、それはぁ……♋」

 

 さすがにここまで押されては、孝治もつい弱気。次に出すべきセリフを口ごもらせた。そこへまた、日明がしゃしゃり出た。

 

「えーーい! えれぁあいらんこと言わんで、チミらは雇い主であるうわたくしの命令に、あすんどらんでいごけばええがにぃ! チミらが行かんでごぶれいするなら、このうわたくしだけでも池田湖の再冒険を果たすのみだがやぁ♨」

 

「駄目だこりゃ☠ 完全に自己陶酔の世界っちゃよ☢ そもそもいつ雇い主になったとやろっか?」

 

 もはや呆れるしかない孝治に背中を向け、日明が再び池田湖に足を向けた。

 

 ただし彼が向かっている池田湖湖畔の足場は、先ほど当のティラノダコラが幽霊カップルに操作をされて、水の中に帰った箇所だった。つまりそこは現在、モンスターの体重で踏まれて大きな水たまりとなっており、辺り一面泥だらけ。地盤も相当にゆるんでいるようだ。

 

「あっ! そっちは危ないっちゃ!」

 

 友美(こちらもふだんに軽装鎧姿)が叫んだのだが、遅かった。

 

「あぎゃーーっ!」

 

 けっきょく泥で足をすべらせた格好。日明が物の見事にすっ転んで、湖にバシャンの憂き目となった。地形がやや斜め気味の、小さな崖状も不運といえた。

 

「ゆおーーっし! 博士ぇ、オレが助けるっちゃあーーっ!」

 

 ここでなぜか、荒生田が救助に躍り出た。

 

「ボクノ出番ヲ盗ラレチャッタンダナ」

 

 背後でポツリとボヤく徹哉を尻目にして。

 

 結果はご予想のとおり。

 

「あれぇーーっ! オレまですべったぁーーっ!」

 

 荒生田までが仲良く、日明といっしょに池田湖へドボンの顛末となったわけ。


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