『剣遊記14』 第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。 (2) 「どげんだって良かっちゃやなんやけど、孝治ぃ……♋」
一生懸命に走りながらで、友美が孝治にささやいた。
「胸ばそげん丸出しで走りよったら、左右にブルンブルンがそーとー凄かっちゃけど♋」
「うわっち!」
友美から言われたところで今さらなのだが、まさに孝治は、今や下に一枚穿いているのみの格好。自分でもけっこう大きかぁ〜〜と思っている胸を、それこそ左右にブルンブルンと揺らしながらで全力疾走しているのだ。
「そ、そげなん……わかっとうっちゃよ!」
孝治は顔面真っ赤の思いでわめき立てた。
「そげん言うたかて、もう着る服かてなかとやし、だいいち今から服着る余裕かてなかっちゃろうも!✄」
『それはそんとおりっち、あたしも思うっちゃけどねぇ☻』
発光球から発せられる涼子の声には、明らかに含み笑いの要素が混じっていた。
『実際、孝治自身がすっごう走りにくそうやない☞ 考えてみれば今まで、裸で全力で走ったことっちなかっちゃけねぇ⛔⚠ ちょっとうらやましかくらい……♨』
「そ、そうっちゃねぇ……♋」
セリフのお終いに少々の嫉妬を感じたものの、かなり意地の悪い涼子からのお言葉であった。だけど孝治は、もう怒る気力もなし。彼女の言い分をすなおに受ける気になってうなずいた。
「おれかて自分がここまでやるなんち、いっちょも想像したことなかっちゃけ⛐ こげんなったらもうなんでも来や、の思いしかなかっちゃよ✐✑」
「ぼくも想像してなかっちゃよ♋」
「うわっち?」
声に気づけば孝治の右横を、(下着姿のままで)裕志が走っていた。しかも鼻から、ボトボトと血を流しながらで。
「うわっち! これは想像どおりの展開ばい☻」
ついでに孝治は、チラリとうしろにも振り返ってみた。
「うわっち! ティラノダコラまで鼻血ば出しようっちゃ!」
大恐竜もまさに今、顔面の先端にあるふたつの鼻孔から、赤い血をたらたらとこぼしていた。その血が点々と、道路にまるで道しるべのようにして残されている有様。それでもなお、モンスターは孝治たちを追い駆け続けていた。
ちなみに首が外れている徹哉は、走りながらでもポーカーフェイス😑を貫いていた。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |