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『剣遊記14』

第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。

     (1)

 グギャン!

 

「うわっち?」

 

 心なしか孝治に瞳には、ティラノダコラの両方の眼が、なぜかハート型に見え始めた。

 

「ま、まさか……あいつぅ……♋」

 

 そんな孝治の危ない予感に、きちんと応えてくれるかのごとく――だった。

 

 グギャアアアアオオオオオオオオン♡♡

 

 今やトップレスのAVモデル状態となっている孝治を目指してか、水分不足で弱っているはずのティラノダコラが、さらなる猛スピードを発揮。大地をドドドッと駆け出した。

 

「うわっち!」

 

 もはや言うまでもなし。モンスターは孝治たち一行を、完全におのれの目標と定めていた。

 

「うわっち! 逃げるっちゃあーーっ!」

 

 孝治はもう、丸出しになった胸を、隠すどころではなかった。そもそもそんな余裕などなし。とにかく大慌てになって、全員がティラノダコラに背中を向けた。

 

「きゃっ! 急いでぇーーっ!」

 

『ほんなこつ、しつこかねぇ〜〜☠』

 

 友美と発光球スタイルの涼子も、いっしょに並んで疾走した(くどいけど涼子は空中浮遊)。ついでにいつの間にか回復している裕志も同伴。

 

「わぁ〜〜ん☂ いつまでこげなことが続くんねぇ!」

 

 女々しく泣き叫びながら走っていた。孝治はうしろに振り向かないままで、裕志を怒鳴り上げてやった。

 

「知るけぇ! あのタコと恐竜の合成化けモンに聞いてっちゃあーーっ!」

 

 さらに付け加えれば、徹哉も自分の頭部を左小脇にかかえたまま、孝治たちと並んで走っていた。

 

「アマリ激シイ起動ハ、ボクノ機能回復ニハ悪影響シカナインダケドナァ」

 

 誰も彼のつぶやきなど聞いていなかった。それよりもここでなぜか、二島のみがもう逃げ出そうともしていなかった。彼はこの場で立ち止まってから腰を下ろし、ボソリとつぶやくだけでいた。

 

「はぁ〜〜、しんどいわぁ……♋ 私はもう疲れ果てましたわぁ……☻」

 

 さすがの超長広舌の達人エルフも、今や疲労が極限まで達したのだろうか。ある意味潔いとも言えそうな態度となり、さらにため息までも吐いていた。

 

しかもここで、驚くべき事態と現象が発生。ドドドッと突進するティラノダコラが、地面に座り込んでいるエルフの吟遊詩人を、完全に無視。その左横で地響きと土煙を巻き上げ、見事に素通りしてくれたのだ。

 

「おや? あのモンスターはんは私のような、体が枯れきった獲物には興味がおまへんようでんなぁ☻」

 

 二島は一応冷静につぶやいてはいた――が、自分自身も状況がよく呑み込めていない様子は明白だった。

 

「あのモンスターはん……やっぱり荒生田はんのおっしゃられはるとおり、♂なんやろうなぁ✍ こりゃ孝治はんも、仰山気の毒な災難モンでんがなぁ☢☻」

 

 ふだんは早口を売り物にしている吟遊詩人も、ここでは借りてきた子猫のようなおとなしぶりでいた。


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