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『剣遊記14』

第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。

     (18)

 このような調子で、孝治側のほうでオタオタしている最中だった。青白い幻影にしか見えなかった物体が、やがて実体化。なんとふたりの男女の姿となった。

 

「わ、若そうなカップルっちゃねぇ♋」

 

 友美が真っ先に、驚きの声を上げた。ただしこれはどのように聞いても、幽霊出現による驚き方ではなかった。出現したふたりが、けっこうな美男美女の姿をしていたほうが、最重要な感じであるのだ。

 

「あ……あんさんらはいったい、何モンでおますんや?」

 

 今回は完全に、メンバーのほとんどが見えているようである。まずは二島から、幽霊カップルに質問を始めた。

 

 現われたカップルは、よくある貴族風の礼服(黒が基調)とドレス(赤が基調)でそろえていた。見掛けだけの印象で言えば、男女ともに育ちの良さそうな雰囲気も感じられた。

 

『お、おいどまは……☻』

 

 質問には男のほうが答えてくれた。発言はこちらが担当のようだ。ただ身なりの良い格好とイケメンの顔でありながら、少し昔風な感じのする鹿児島弁が、かなりな違和感を生じさせてもいるのだが。

 

『おいどまらは、この怪獣どんが、不憫でならんとですじゃ☂ おいどまらは昔、てそい(鹿児島弁で『面倒臭い』)かんげんね身分違いの話にだれて、こげんごつふたりして心中したんでごわんど それからいっのこめ(鹿児島弁で『いつの間にか』)月日があばてん(鹿児島弁で『たくさん』)ね経ったんじゃが、うぜけん(鹿児島弁で『世間』)から離れたんだけど、ここもうけある観光地みたいに、いらんこつうぜらしか場所になってしもうたと そこへきのっておじゃた(鹿児島弁で『いらっしゃった』)もんせしたんが、この大怪獣どんでごわんど 初めはいけんしてんうんだもしたんしたとやが、かった(鹿児島弁で『なんとなく』)うっちぇしてもうてるうちに、なんかぐらしかごつなって、いっのこめいっしょにこん池田湖で共存ばしよったと そいがきょうの騒ぎで怪獣どんのむいなか(鹿児島弁で『可哀想な』)話ば聞いて、これからも池田湖でいたんこつせんで、てげてげにてのんして(鹿児島弁で『ほどほどに連れ立って』)行こうっち思いよんだからよぉ☯☏

 

「ふむふむ、そうでっか☟」

 

 長くてとてもむずかしいコアな鹿児島弁を、二島がいかにも納得しましたがな――の顔で聞いていた。ここはさすがに、一般人の寿命よりも遥かに長い年月を生きる、エルフの年の甲と言うべきか。要するに、昔いがみ合う両家に絶望して心中したカップルが、池田湖の守護霊となっていたらしい。そこへティラノダコラが現われてしばらく共存をしていたのだが、きょうの騒ぎで彼の境遇を知って同情し、これからもいっしょに湖で暮らしていこうという話なのだ。

 

 だがそれより、孝治はイケメン幽霊の声のほうに、モヤモヤしていた記憶を刺激されていた。この声は間違いなく、海底でティラノダコラと初めて遭遇したとき、孝治と友美を導いて、危機一髪から助けてくれた声だった。

 

 それを今、再確認したかたちである。

 

「あんとき……おれたちば助けてくれたの、あんたらやったんやねぇ☆」

 

 孝治の小さなつぶやきに、美女の幽霊のほうが、ニコリと微笑んでくれた。この場での発言はほとんどイケメンに任せている感じだが、やはりふたりで、いつも協力し合っているのだろう。

 

「ほんなこつ、ありがとうございました

 

 そのときの危機一髪を覚えている友美も、幽霊カップルにペコリm(__)mと頭を下げた。

 

『このふたり、あたしんこつ、どげん思うとんやろっか?』

 

 なんだか蚊帳の外のような気持ちでいるのだろうか。発光球スタイルのままの涼子が、孝治と友美相手に、こっそりとささやいた。孝治は声を小さめにして、これに答えてやった。

 

「たぶん、やろうけど、あのふたりも今の涼子は、ただのウィル・オー・ウィスプっち思うとんやない? 幽霊同士、お互いば意識しちょらんかったらいっちょも姿ば見えんっち、涼子が前に言いよったろうも 今回はまあ光っとう姿が見えようけ、声だけは涼子にも一応届いたみたいっちゃねぇ

 

『そうっちゃねぇ〜〜

 

 口調から察して涼子も、これには納得した感じでいた。


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