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『剣遊記14』

第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。

     (15)

 一応、今回の冒険と騒ぎは、これにて終了の雰囲気となった。

 

 もちろんティラノダコラに芸を仕込んで見世物にする話など、一秒で御破算となったわけ。

 

「とにかく真相がバレへんうちに、私らは指宿からほなサイナラしたほうがええんとちゃいまっか☠」

 

「そ、そうっちゃね……♋」

 

 二島の進言もあって、孝治たちは急いでティラノダコラを、密かに元の池田湖へ戻すようにした。なぜならすべての騒動の元凶が日明博士の無責任から発生している以上、もしもこれがバレたらお終い。付き合い上、孝治たちも共犯は免れ得ないと思えるからだ。

 

 これは根本的な解決策ではないのだが、モンスターがおとなしく湖で暮らしていれば、それはそれで天下泰平と言うものであろう。

 

 ここで当然の疑問を、孝治は二島に尋ねてみた。

 

「で、どげんして、こんティラノダコラば、池田湖まで行かせるっちゃね?」

 

「さあ?」

 

 二島もまともに答えてはくれなかった。さすがにこの世のありとあらゆる事情に精通している吟遊詩人でも、大怪獣の誘導方法までは、とても無理な相談であろう。

 

 さらに裕志が、ポツリとつぶやいた。いまだシャツとブリーフだけの情けない格好で(それを言うなら、孝治も先ほどからまったく変わっていない♋)。

 

「こげなときに到津さんがおったらねぇ〜〜☁☹」

 

「ああ、そん話っちゃね☞」

 

 孝治もその話は聞いていた。ずっと前に荒生田と裕志、それに今話に出てきた到津福麿{いとおづ ふくまろ}とバードマン{有翼人}の戦士である石峰静香{いしみね しずか}の四人が、関西でやはり今回のような怪獣騒ぎに巻き込まれた件である。この四人の活躍(?)で事件が解決したあと、残った怪獣を到津が大陸の自然豊かな場所まで、おとなしく誘導していったとの結末らしい。

 

 この話は帰ってきた荒生田から、孝治も散々に自慢話として聞かされていた。荒生田の大活躍自体は話半分で聞いていたのだが、確かに到津が現在ここにいれば、おとなしくなったティラノダコラを大陸のどこか――ではなく、そこまでは行かないにしても、池田湖くらいまでなら簡単に導いてくれるだろう。

 

 なぜなら到津はドラゴン{竜}の化身であり、怪獣の業界(?)では、けっこう顔が利くらしいからだ。

 

 しかしもちろん、現在この場に不在な者を、今さら呼びに行くなど無理に決まっている。またもや北九州まで歩いて帰らないといけないわけだし、その間ようやくおとなしくしているティラノダコラを、事実上放置する状態になってしまう。

 

「ほんなこつ、どげんしたらよかっちゃかねぇ〜〜?」

 

 孝治は両腕を組んで考えた。他のメンバーたちも同じ仕草をしているが、全員なかなか良いアイデアが浮かばないようだ。

 

 そんなところへ――だった。

 

『池田湖への道案内なら、あたいらがやりますが✌』


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