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『剣遊記14』

第五章 湖の秘密と後片付けはキチンとね。

     (13)

「で、ほんまにこのティラノダコラはんに芸を覚えさせはって、なんや金儲けの材料にしまんのかいな?」

 

 荒生田の思いっきり邪{よこし}ま過ぎる考えに、二島がもろ疑問を投げかけた。

 

 これも当然、荒生田と日明以外、全員がこの悪だくみとしか思えない発案に、とてつもないほどの零信全疑を感じているのだから。

 

「は、反対ですっちゃ! いくら先輩の夢かて言うても、無謀過ぎっちゅうもんちゃよ☠」

 

 無論反旗の先頭に立つ者は孝治なのだが、それでもなんだか、説得力のない状態。

 

「反対もけっこうなんやけど、早よ服ば探してくれんやろっか☁」

 

 友美が右横でぼそっとつぶやくとおり、孝治は今もってトップレス姿を貫いていた。しかし孝治の名誉のために申しておけば、決してヌードを人の目から見られる快感に目覚めたわけではない。ただ単に話が急展開過ぎて、着られる服を探す余裕が、なかなか作れないだけの話なのだ。

 

 事実、両手で胸をしっかりと隠しながら、孝治もこの件については、もうきっぱりとあきらめてもいた。

 

 ところが荒生田は、このように健気な(?)孝治を無視。二島の問いだけに答えるような態度にでた。

 

「ゆおーーっし! 心配要らんばい☻ 今見たとおり、日明博士の言うことはよう聞くっちゃけ、ふたりで組んで大儲けっちゃよ✌♪」

 

 けっきょくますます、邪まに拍車のかかる荒生田であった。しかし今の談話(?)を耳にした二島は、ふふんと鼻を鳴らすだけの仕草を見せていた。

 

「まあ、金が儲かる話に今さら異など唱える気はあらしまへんけど、まああんじょう良う頑張りはったらええんとちゃいまっか☻」

 

 早い話が、サジを投げている感じ。それでも、よけいなひと言を忘れていなかった。

 

「で、キャッチコピーはどないしまんねんな? ふつうのモンスターはんくらい、この世の中には仰山珍しゅうないほどおりますさかいになぁ☻」

 

「まあ、そこんとこもオレはしっかり考えとんやけね✌」

 

 やや皮肉混じりと言えそうな二島の続けざまの問いに、荒生田はサングラスの奥の三白眼を、チラリと孝治に向けてから答えた。

 

「うわっち!」

 

 孝治の胸に、オホーツク海流氷が流れ着いた。もちろん荒生田の回答も、孝治の予想どおりだったけど。

 

「『美女と野獣』! これにもう尽きるっちゃね こげんして野性味たっぷりの半裸の美女が、大自然の中において大怪獣とサシでの勝負っちゃ これ以上のキャッチコピーがこの世にあるっち思うっちゃね☛

 

「なるほどねぇ〜〜☻」

 

 一応うなずいた感じを見せてから、今度は二島が孝治に顔を向けた。

 

「っちゅうことやそうでんがな☏ 孝治はんはどないしはるおつもりやねんな?」

 

「おれの『つもり』はこれたぁーーい!」

 

 飛び上がった孝治の(何回目なのか、数えるのも疲れた)飛び蹴りが、ドッカァーーンと荒生田の顔面に再度激突した。

 

「あひぃーーっ!」

 

 ぶっ飛んだ荒生田が、ドスンとティラノダコラの胸元に命中!

 

 グギャン?

 

 なぜか不思議に感じている様子のティラノダコラから、両方の長い触手でギュッと抱き締められる格好となった。

 

「むぎゅう……ぐるじい……♋」

 

 大怪力で真剣に締め上げられ、荒生田の顔面の色が、瞬く間に赤から青へと変色した。


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