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『剣遊記]』

第一章  闇より迫る緑の影。

     (9)

 そこへ孝治の背後から、かなり立腹気味の声がした。

 

「孝治くん! コウモリんこつ悪う言うのはやめてほしかとやけど♨ わたしかてそん物語ば知っとうばってん、コウモリは立派な哺乳類の一員やけね♐」

 

「うわっち!」

 

 孝治もこれにはビックリ。うしろから突然、給仕係の七条彩乃{しちじょう あやの}が目尻を立て(しかも金目に光っている)、孝治に文句を言ってきたからだ。

 

 孝治はこれまた大慌てで、頭を横にビュンビュンと振りまくった。あとでパンチドランカーを心配しないといけないほどに。

 

「い、いや! おれは彩乃ちゃんのことば言うたわけやなかっちゃよ! 例えが悪いんやったら、イソップのおじさんに文句ば言うちゃってや☂☃」

 

「彩乃ちゃんって、いつでもコウモリん味方やけねぇ♡」

 

 友美が左横で、くすっと微笑んだ。これにも彩乃が応じ返した。

 

「まあとにかく、全世界のヴァンパイア{吸血鬼}ば代表して、コウモリの悪口は絶対駄目ばってん♥ 言うんやったらもっと、コウモリをきゃーぶる(長崎弁で『カッコ良く』)言うてや♡」

 

「う、うん……わかったっちゃよ☂」

 

 彩乃の瞳が金から通常の黒に戻ったので、孝治も『あわわ😭』ながら、コクリとうなずいてやった。これを見てか、黒崎が彼にしては非常に珍しいスタイルを披露。なんと腹をかかえて笑っていた。

 

「あははははははっ、さすがの女戦士も、ヴァンパイアのド迫力の前には形無しだな。ほんとに言葉には気ぃつけるべきだがや」

 

「もう、店長ぉ〜〜☠ 話ば元に戻しましょうよぉ〜〜☠☠」

 

「おっと、そうだがね」

 

 真に女性らしくほっぺたをふくらませているつもり(?)の孝治に言われ、黒崎もようやく、コホンと咳払いをしてくれた。

 

「まあとにかくぶっちゃげて言えば、今度の件は東の皇室が西の皇帝への見せびらかしだがね」

 

(また話が初めに戻ったばい……☠)

 

 孝治は内心で、愚痴愚痴とつぶやいた。


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