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『剣遊記15』

第一章  目覚めれば太平洋ひとりぼっち。

     (9)

「新兵さんは早よ起きんしゃ〜〜い♪ 隊長さんに叱られるぅ〜〜ってね♫♬」

 

 孝治はヤケクソ的な鼻歌を口ずさみつつ、けっこう広い帆船の甲板をモップ一本で、船首から船尾まで磨き続けていた。

 

 つまり美奈子の言ったお仕置きとやらは、広い甲板の拭き掃除。

 

 すでに飽きるほどの描写済みであるけれど、ここは広い大洋のド真ん中。強い日中の日差しがビキニひとつである孝治の背中を、情け容赦なくジリジリと焼いていた。

 

 その掃除風景を眺めている者は、帆船の右舷側手すりに身を寄せている、友美と涼子のご両人。これも前述済みだが、お互い血の繋がりがまったく無い、赤の他人同士。それなのに寸分も違わない容姿のためか、こちらのほうも千秋・千夏姉妹に勝るとも劣らない、見事な双子に見えている。

 

 でもってその友美が、孝治の背中に話しかけてきた。こちらも変わらず、青いビキニ姿のまんまで。

 

「大丈夫ね? なんか孝治ばっかしエラい目に遭わされてばかりで、わたし、美奈子さんに文句ば言うてこっか?」

 

 孝治はモップで甲板を拭く手を止め、友美に顔を向けた。

 

「まあ、よかっちゃよ どうせ前からこの甲板、塩と埃の汚れが気になっとったとやけ ちょうどええ機会っちゃね

 

 続いて幽霊の涼子も、孝治の背後から声をかけてくれた。

 

『孝治っていつもかつも、物の見方が前向きっちゃよねぇ⚐⚑ そのポジティブな考え方っち、あたしもよう見習いたいわ♠♤

 

 このふたり(友美と涼子)と、もうひと組――千秋・千夏の双子姉妹がいるおかげで、船内の人員は総勢七名なのに、顔種類は五通りしか存在しないという、ある意味変な矛盾で満ちているのだが。

 

「そもそもおれたちっち……☁」

 

 顔の識別はさて置き、孝治は話の根本的な筋について、ふと口から洩らしてみた。

 

「こげなええ船に乗せてもろうとんのはええとしてやねぇ、そもそもおれたちってなして船に乗って、こげな長い航海ばしよんやろうねぇ?」

 

「そりゃ、決まっとろうも☆」

 

 間髪を入れず、友美が明解に答えてくれた。

 

「美奈子さんのクジ運が、でたん良か……に尽きるとちゃうんね✌」

 

「納得✍」

 

『あたしもおんなじやね✐』

 

 孝治も涼子も、その点に異論はなかった。ついでにもうひと言、孝治は付け加えた。

 

「正しくは秋恵ちゃんなんやけどね✄」

 

 これにて話は大きく、事の成り行き方向へと遡るわけ。


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