『剣遊記15』 第二章 開運! 美奈子の大当たり☆ (1) 「ほんま、長い旅でおましたなぁ〜〜⛴」
魔術師――それも一応『天才』の部類に属する美奈子は、帝都東京でのひと仕事を終え、現在九州への帰路に着いていた。
今回彼女が依頼をされた仕事は、初めっからの予測どおり、実に単純極まる簡単な話であった。
遠路はるばる東京まで足を伸ばしたものの、依頼された仕事は、貴族が単なる趣味で集めただけの、要するにお宝の鑑定ばかり。未来亭で黒崎健二{くろさき けんじ}店長から指示を受けた時点である程度わかっていたのだが、美奈子得意の攻撃魔術も変身魔術も、まったくの出番無しであったのだ。
「今さら言うのもなんやけど、わざわざ東京まで出向いてやったっちゅうのに、師匠の腕の光りよう、全然あらへんかったなぁ〜〜⛐」
現在地は左手の側に安芸{あき}の宮島{みやじま}が眺められる、広島県の山陽道。名勝極まる街道をボチボチと歩みを進めながら、角付きロバである『トラ』の手綱を牽く千秋も、深いため息を禁じようとはしなかった。
美奈子はつぶやいた。
「それもこれも、みんな貧乏が悪いんやでぇ⚠☠」
こんな中で唯一、今回初めて遠出の旅という小冒険に参加をさせてもらった秋恵だけが、なんとかして全員の士気を高めるつもりで、ひとり元気な声を上げていた。
「そがんこつなかですよぉ〜〜っ★ 美奈子先生の鑑定でぇ東京の貴族さん、いじくそ喜んで、だんだんおーきん言うちょりましたばぁい☺」
本来旅人ではない秋恵は、今回初めての冒険参加で(服装は友美から借りた軽装鎧)、帰りの道中である今もなお、胸の興奮が収まり切れない思いでいた。当然ながら、天真爛漫がいつも全開である千夏も、旅の始まりから秋恵とすぐに意気投合。
「そうですうぅぅぅ☺☺☺ 秋恵おねえちゃんのぉ言うとおりさんですうぅぅぅ☆☀☆ 東京の貴族さぁん、お礼と言ってぇ、美奈子ちゃんにも千秋ちゃんにも秋恵おねえちゃんにもぉ、そしてぇ千夏ちゃんにもぉ、たくさんたくさんごちそうしてくれましたですうぅぅぅ☕☺✌ だからぁ千夏ちゃん、ちょっと太っちゃいましたですうぅぅぅ✊✊✊」
まあ、このふたりが気の合ったお友達同士となるであろう話の展開は、旅の決定以前からの成り行きでもあったのだが。
「そうでおますなぁ☺ 今回は秋恵はんには、ほんまええ勉強の機会になったかもしれへんどすなぁ☻」
このような秋恵と千夏の、やや場違い気味な無邪気ぶり。美奈子はなんだか苦笑のような気持ちになって、少しだけふふんと鼻を鳴らした。
それでも全体的に、ややボルテージが下がり気味な中だった。街道を四人と一頭のメンバーで進んでいる最中のこと。トラの手綱を牽く千秋が急に立ち止まって、道の前方を右手で指差した。
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