『剣遊記15』 第一章 目覚めれば太平洋ひとりぼっち。 (5) ところが――である。
「なんや、そないなことでおますんかいな☕」
帆船の絶体絶命的な危機を耳に入れても、超マイクロビキニ姿である美奈子は、なぜか余裕満々の感じで、微動だにもしなかった。
まさに孝治のあせり丸出しとは、完全に対照的。ふだんの優雅な仕草そのものを維持し続けていた。
これはいわゆる、この場での最年長者としての貫禄であろうか(美奈子ニ十歳。孝治十八歳)。
なお、この時点において何度も描写しているので、賢明なる読者諸君はもうお気づきであろう。現在この帆船の中には孝治や美奈子たち以外の乗員乗客の姿が、ただのひとりも出ていない――と言うことに。だけどその件については孝治を始め、ひとりも突っ込む者はなし。真相は後回しにするけど、これも全員がすでに、承知済みとしている話の設定である。
とにかく船長クラスの人物さえ不在の中だった。美奈子はブリッジの前面に広がる大きな展望窓から、正面の大海原に瞳を移し変えた。これも何度も繰り返すけど、さすがに場所が場所なだけあって、彼女たちの瞳の前に広がる大パノラマの眺めは、まさしく絶景中の大絶景と言えた。
これを資産価値で表現すれば、それこそ百万ドルクラスの超観光スポットではなかろうか。
「ええ景色でおますなぁ〜〜☺ で、孝治はんが言ってはる大岩はんって、あれでおますんやな☛」
そんな呑気なことを言っている美奈子もすぐに、帆船の前方にてそびえ立つ、直立型の大岩に気づいてくれた。
「そ、そうっちゃよ☞」
孝治はとりあえず、ほっとした。美奈子のいつもの天然ボケは、今のところ返上のようであるからして。これでふつうにボケが入った場合、美奈子はあさっての方向を見て、『岩なんかおまへんで⛐』とほざくパターンであろう。
ついでに言えば、前方を眺める美奈子の後ろ姿は、背中に黒色の紐が一本、まっすぐ上から下に通っているだけ――としか見えなかった。まさに超マイクロビキニ特有の、全裸ではないが公衆道徳すれすれのスタイルである。
「うわっち!」
付き合いが始まってけっこう長い日々が経ち、時々本当に美奈子の裸を拝見した経験のある孝治ではあった。だけどこの新たなる誘惑のフェロモン全開極まる今の姿に、正直言って瞳が釘付けの有様。それでも美奈子はやはり、余裕の態度で前方を見つめるだけでいた。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |