『剣遊記15』 第一章 目覚めれば太平洋ひとりぼっち。 (3) 孝治は帆船内の通路を、船橋{せんきょう}――ブリッジに向けて、猛スピードで駆け抜けた。
ただし走っている間に孝治は、他の船客や船の乗組員などと、ひとりも出くわさなかった。
実はこれも、孝治はすでに承知済み。孝治は初めっから、気にも留めなかった。そのため誰とも衝突する事態とはならず、孝治は一直線に、帆船のブリッジまで急行することができた。
それこそ超まっすぐの一目散で。
てなわけで、あっと言う間にブリッジのドアの前。孝治はそのドアをぶち壊すかと思えるほどの勢いで、右足でドカンと蹴りつけた。
それから孝治は叫んだ。
「ふ、船がぶつかるっちゃよ!」
「えっ?」
「なんどすえ?」
『まさかぁ?』
「なん言うとんや、ネーちゃん☻」
「うわぁ、それは大変さんですうぅぅぅ⛐♡」
「きゃっ! こわぁ〜〜い☠」
返事は六人から戻ってきた。つまり六人が六人、全員がブリッジでたむろをしていたわけ。そのたむろの理由は孝治にはわからないけど、メンバーは全員女性ばかり。それも孝治と同じでみんながみんな、見事に水着姿での勢ぞろい。ひとり例外もいるけど。
このような目の保養状態も初めっからわかっていたので、とにかく孝治は大声を繰り返した。
「こ、こん船ん前にでっかい大岩が立っとうっちゃよ! 早よ進路ば変えんと衝突するっちゃけ!」
「おやまあ、それはあんじょうよろしゅうおまへんなぁ☢」
「うわっち!」
恒例の京都弁で返してきた黒髪の長い女性の水着姿を見て、孝治はこのとき初めて、仰天の極致となった。
「な、な、なっ! 美奈子さん、それっち水着っちゃねえ!」
孝治はブリッジ内で飛び上がり、天井にゴツンと頭を衝突させた。それと言うのも、孝治の瞳の前に立つ京都弁女子兼魔術師――天籟寺美奈子{てんらいじ みなこ}の水着とやらが、奇抜も奇抜。体の皮膚の部分をほとんど隠していない、ほぼ紐状である超マイクロビキニ姿でいたからだ。ちなみに紐の部分も、肝心かなめを隠している布地の箇所も、全部黒一色。
とにかくこれには、自分自身のビキニスタイル👙に慣れているはずの孝治も、思いっきりに意表を突かれた思いとなった。
「み、美奈子さん! ずっと前、今度の航海のために新しゅう買ったっちゅう水着ば、初めて着るっち言いよったっちゃけど、それが新しい水着っちゅうとね! いったいどげな風の吹き回しなんね!」
孝治は必死の思いでわめきまくったが、当の美奈子はケロッとしたものだった。
「おや? あきまへんのけ?」 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |