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『剣遊記15』

第一章  目覚めれば太平洋ひとりぼっち。

     (1)

ザザァ〜〜と聞こえる波の音で、若き戦士こと鞘ヶ谷孝治{さやがたに こうじ}は、パチリと瞳を覚ました。

 

「え〜〜っと、どこやったっけ……ここっち?」

 

 しかし目覚めてはみたものの、孝治の意識はまだまだ、覚醒とやらには程遠かった。

 

 それも無理はなし。孝治の目覚めた場所は、いつもの自分の部屋(未来亭の借家)ではなかった。しかもこの場は、けっこう高価そうなインテリアで凝ってある、強いて言えば贅沢三昧な調度品でぎゅうぎゅうにされている部屋。一流ホテルの最上級といっても良いような寝室であるのだ。

 

 これでは夢と現実の区別がなかなかつかないほうこそ、言わば当然と称しても良いのかも。

 

 早い話が、場違いもいいところ。そのような高級極まる部屋の中で、果たして寝心地が良過ぎたのだろうか。それともやはり、いつもとの勝手の違いか。ふだんの睡眠とはまったく異なる、孝治の朝の目覚めであった。

 

「……起きよ……☹」

 

 いつまでもボケッとしても仕方がないので、とにかく寝ていたベッドから毛布(緑色)をはねのけ、孝治は上半身を起き上がらせた。そこで孝治は自分が今、水着姿でいる状態なのも思い出した。

 

「あ、そっか……☁」

 

 現在自分が着ているもの。それはオレンジを主とした、赤とピンクの混じった三色斑{まだら}模様をした上下の水着は、物の見事に本物のビキニ👙である。

 

 ただし、別に驚く気もなし。また特に、感情を高ぶらせる必要もなし。むしろ孝治は、冷静につぶやくのみでいた。

 

「そげん言うたら……かなり前からこんまんまやったっちゃねぇ……

 

 少しずつ以前の記憶と今の現状を頭の中で再生整理させながら、孝治は一流ホテルのような最高級寝室から外に出ようと、ベッドを下りて床に立ち上がった。どうせ豪華で贅沢三昧な家具や調度品など、まったく興味の対象外なのだからして。

 

 ついでに言えば、部屋に備え付けで置かれてある大鏡に写る自分の姿は、まさに見事なるプロポーション(それもビキニのみ)。おまけにそのような姿格好でいながら、孝治自身は現在、羞恥の気持ちをほとんど抱かなかった。

 

 これも早い話ながら、すべてを承知済みとしているので。

 

「よう考えてみたら……今のおれのスタイルっち、みんな友美の推薦なんばいねぇ……☢ そん友美も涼子も、ここにはおらんみたいやけどぉ……早起きして、どこ行ったんやろっか?」

 

 孝治はふふんと苦笑気分になって、部屋のドアノブを右手で握って回した。もとより鍵など、かかってはいなかった。


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