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『剣遊記閑話休題編T』

第三章 真夏の嵐の夜の夢。

     (8)

「おめえはアホけ?」

 

 カッコつけて、孝治は剣を構えたのだが、それをたったのひと言で、射羅窯から全否定をされた。孝治としては、一気に立つ瀬がない感じ。まあ、これも無理はないかも。

 

『なん馬鹿んこつ言いよんね! 今の孝治がそげんこつ言うたかて、いっちょも説得力ばなかっちゃでしょ!』

 

 涼子のご指摘も、ごもっともであった。

 

「そげん言わんでもよかろうも……☠」

 

 孝治ガックリ。自分の立場を見失った。

 

「よっしゃ♡ 邪魔になりそうなふとか男はおらんようやし、武器ば持っちょうのはおめえひとりだけんようばいね♐」

 

 ここで射羅窯があからさまに、安堵の表情を浮かべてくれた。それも完全に、孝治を舐めた感じで。それから自分の真正面に立つ孝治に向けて、言い放った。

 

「ええか! こいつば殺されとうなかったら、その剣ば捨てるったい! そんだけやなかけ☠ おめえだけ、そん色気んなか水着ば脱いで裸になるんばい♡」

 

「うわっち!」

 

 孝治は顔面が怒りと羞恥で、たちまち真っ赤の思いとなった。

 

「て、てめえっ! いい気になってスケベ根性ば剥き出しにしてからにぃ! てめえは最初っからこれが目当てやったんやろうもぉ!」

 

「しぇ、しぇからしかぁ!」

 

 顔が真っ赤になっている状態は、射羅窯も同じであった。しかも怒鳴りながらで、斧の刃先を登志子のノドに押し当てていた。

 

「こ、これはスケベなんかやなか! 立派な武装解除ってやつったい! 四の五の言いよったら、人質の首ばかっ斬るばい!」

 

「あ〜〜ん! 死ぬ前に高さ三メートルのディングケーキば、丸んまんま食べたかったっちゃあ〜〜☂☂」

 

 人質の登志子が、またも高い悲鳴を上げた。しかも彼女は、(この期に及んで食いしん坊万歳とは言え)か弱いひとりの女の子なのだ。

 

 例えて人質が由香だった場合、彼女であればウンディーネの力を活用し、水になって逃げるところだろう。また彩乃だったら逆に射羅窯に襲いかかり、その血を全部吸ってしまうかもしれない。味の保証まではできないけれど。

 

「ちっ! わかったっちゃよ☠」

 

 とにかくこれにて、八方ふさがり。観念した孝治は、剣を広間の床に放り投げた。それからスクール水着のエリに両手をかけ、上のほうから脱ぎにかかった。

 

 自慢するつもりはないが、形の良い胸を露出させるのに、律子の水着は少々窮屈だった(あとで律子が知ったら怒るかも♨)。結果、全部を脱ぐまで、多少の難儀を強いられた格好。

 

「ボヤボヤすんやなか! さっさと全部脱がんねぇ♡」

 

 などとがなりながらも、実は鼻の下を伸ばしている射羅窯。そんな野郎から急かされつつ、孝治は精いっぱいの虚勢を張ってやった。

 

「しゃーーしいったい! 黙っちょれ!」

 

 孝治はこのとき、胸の内で大きな後悔をしていた。このような本当の緊急時に備え、いつも着ているはずの鎧なのに、今回に限って無着用にしていた自分の行ないを。

 

 自分は護衛だと豪語しておきながら、実はすっかり遊び気分でスクール水着などを着ていたのだ。それに高が海水浴などと、やはりある種の油断をしていたのかも。

 

(しまったっちゃねぇ〜〜……ったく我ながら不覚やったばい……☠)


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