『剣遊記閑話休題編T』 第三章 真夏の嵐の夜の夢。 (6) 「きゃああああああああああああっっっ!!!!」
登志子の甲高い悲鳴が、小さな島中に大反響となった。
「な、なんやぁーーっっ!」
広間で夕食を待ち続けていた孝治は、すぐにその声に反応して立ち上がった。
「登志子ん声ばい!」
友美もすぐに気がついた。
『今のって、トイレんほうからっちゃね! 夜のトイレは怖かもんやけねぇ☠』
自分が怖がらせるほうの立場(幽霊)は度外視して、涼子も急いで悲鳴の方向に向かって飛び出した。
「待ちんしゃい! おれも行くけ!」
「わたしも!」
もちろん孝治と友美も、あとを追い駆けた。そこでバッタリ、廊下で由香たちと鉢合わせ。
「うわっち!」
「きゃあ!」
「にゃあーーっ!」
由香たちは涼子の幽体など知らずにすれ違い。さらに彼女たちの足元には、三毛猫に変身中である朋子もいた。
それはとにかく、由香たちの顔は真剣そのものだった。
「なんか登志子にあったみたいっちゃよ! いったいなんやろっか!」
「わからんばい! それよか急いだほうがええっちゃけ!」
孝治はこの場で唯一、武装で剣を持つ者として、由香や友美たちの先頭に立った。それから全員駆け足で渡り廊下の先、トイレがある海の家の離れへと向かった――と、その前方に、当の登志子が現われたではないか。
「うわっち!」
しかし孝治は、思わずの驚き声を上げた。なぜならどこからどのように見ても、状況も雰囲気も、とてもおだやかとは言えなかったからだ。その理由は登志子が首筋に中型の斧を突きつけられ、おまけに小脇で首を絞めつけられているためなのだ。
少なくともこの島では見た覚えのない、大柄な男の手によって。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |