『剣遊記閑話休題編T』 第三章 真夏の嵐の夜の夢。 (5) 「ちょっと……してくるっちゃ……☢」
全員で料理の真っ最中。登志子がポツリとつぶやいたとき、土砂降りはすでに小康の状態となっていた。
それでももう、夜は遅かった。
孤立している島は、すっかり完全の闇で覆われていた。
「やっぱ……トイレは怖いっちゃねぇ〜〜☠」
炊事場と広間にはロウソクの火が置かれているのだが、火災予防のため、廊下には火が灯されていなかった。だから膝をガクガクと震わせながらも、登志子はなんとか用を終わらせた。それからすぐに、みんなの元へ戻ろうと、けっこう長い渡り廊下を、彼女は急ぎ足で駆け抜けようとした。そのとき通路の右側にある松林のほうから、ゴソッとなにやら、怪しい物音がした。
「嫌やなぁ〜〜☠ なんかおるとぉ〜〜☠」
そこで足を停めたことが、登志子の命取りとなった。いきなり茂みの中からガバァッと、黒い影が飛び出したのだ。
それから一瞬にして、影が登志子をうしろから羽交い絞めにした。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |