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『剣遊記閑話休題編T』

第三章 真夏の嵐の夜の夢。

     (2)

 文字どおり、孝治たちは島で缶詰の身となっていた。

 

『……ったくよう降るっちゃねぇ、こん雨はぁ☠』

 

 広間にある大きめの窓から外の雨模様を眺め、涼子がムカつき気味でつぶやいた。

 

 孝治はその左横で胡坐をかき、愛剣の手入れ(乾いた布で拭く)をしていた。その手を休めないままで、ひと言。

 

「やきーおれが言うたろうも♐ 海の天気も山みたいにコロコロ変わりやすかってね☁ やけん海に慣れちょうはずのおいしゃんたちかて、この天気の急変ば見抜けんかったみたいっちゃねぇ☂」

 

 少々の隠れた自慢も含めて、孝治は涼子の鬱憤に付き合ってやった。ちなみに孝治の格好は、今も紺色のスクール水着を着ているまま。ただし水着でいる者は、孝治だけではない。島に缶詰の面々全員、水着のままでひと晩を過ごすつもりになっていた。

 

『そやけど、嵐の小島に置き去りっちゅうのはひどかっちゃよ♨ これやったらほんなこつ、遭難漂流記やない♨』

 

 涼子が文句を垂れ続けるとおり、島は完全に、孤立無援の状態。豪雨が絶え間なく降り続き、海面の波も高く荒れていた。

 

 これでは少なくとも雨が降っている間は、島から対岸まで渡る手段が皆無である。

 

「涼子もいつまでブツブツ言いよんね☠」

 

 そこへ友美が、炊事場から戻ってきた。彼女ももちろん、水着のまま。黄色のビキニを貫いていた。こうなると例外は、いつも全裸の涼子ぐらいのものである。それは棚に上げ、すぐに孝治は、友美へと振り向いた。

 

「どげんね? 由香たちがきょうは有り合わせの材料で夕食ば作るなんち言いよったけど、いったいなんが出来るとやろっか?」

 

 実のところ先ほどから、グルルゥゥゥ……と鳴っている腹の虫を抑えながらでの、孝治の問いであった。これに対する友美の返答は、どこか苦笑混じりの感じでいた。

 

「出来ることは出来そうっちゃけどぉ……あるのは全部海産物ばっかしやけ、やけんたぶん、出るのは焼き魚っちゃね♥ なんかわたし、猫になりそうな気分ちゃよ♥」

 

『猫やったら朋子ちゃんの十八番{おはこ}やなか?』

 

「ぷっ♡」

 

「ははっ♡ そんとおりっちゃね♐」

 

 涼子のさりげないツッコミに、箸が転んでも笑える心境であった友美と孝治は、思わずそろって吹き出した。これはつまり、今現在の状況が、思いっきり『暇』のひと文字に尽きるわけであるから。


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