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『剣遊記閑話休題編T』

第三章 真夏の嵐の夜の夢。

     (12)

 一方炊事場では由香たちが、奥に固まってひそひそと密談をしている真っ最中。そこへ射羅窯の先ほどの雄叫びが、まるで大地震のように響いてきた。

 

「あいつ、あげんこつ言いようばってん……出せるのっちほんなこつ、初めに言うた焼いた魚しかないんよねぇ……ほんなこつどげんする?」

 

「でも、こん焼き魚ば出しちゃったら、あいつがいに怒り狂うんと違うぞなもし?」

 

 由香があせっているとおり、桂が両手で持っている皿の上には、物の見事に真っ黒焦げ。炭に近い有様となっている、チヌの成れの果てが盛られていた。

 

 早い話が焼き過ぎなのだ。

 

「でも、しょうがなかっちゃよ☢ こんまんまじゃ登志子が危ないっちゃけ☠」

 

「しょんなかばい☠ これで出してみましょ☁ そこの煮過ぎてグチョグチョのアラカブもやね☂」

 

 由香や彩乃を始め、みんなの意見がとりあえず、その方向でまとまりかけていた。そこへパッと、今まで魔術で姿を消していた友美が、突然炊事場に現われた。

 

「きゃっ! 友美ちゃん!」

 

 さすがに急だったので、由香が驚きの声を上げた。

 

「なんね、魔術で透明人間になっとったんやねぇ☞」

 

「え、ええ……♡」

 

 感心している彩乃にちょっとだけ笑みを向け、友美が真剣な口調になって、広間の様子を報告した。ちなみに魔術で透明になっていた友美は涼子と違って、今もビキニの水着姿のまま。魔術の便利さは抜群で、通常の衣服を着ていても、透明化にはなんの問題もないのだ(ご都合主義)。

 

「みんな、愚図愚図しよう場合じゃなかっちゃよ! あのヒゲ男、酒は無いし飯も遅かっちゅうて、だんだんイライラしてきようとばい!」

 

「そりゃまずかっちゃねぇ☠ 早よこん魚ば持って行かんと!」

 

 由香も慌て気味になって、とにかく煮物のつもりであるアラカブを、チヌと同じように皿へと盛った。調理に時間をかけ過ぎたので、ほとんど魚のかたちを成していない有様ではあるが。

 

 友美はそんな様子をハラハラドキドキの心境で眺めつつ、メンバーがひとり足りないことに気がついた。

 

「あれ? 朋子ちゃんはどこ?」

 

「にゃあ〜〜♡」

 

 そこへ友美の足元から、『あたしにゃらここにゃんよ♡』とでも言いたげ。三毛猫こと朋子が、小さな声で鳴いた。

 

「朋子ったらほんなこつこすかなんやけねぇ☠☢ みんなが危機に陥っとうときに、まだ猫んまんまでおるとやけぇ♨」

 

 彩乃が腹を立てている顔をして、文句を垂れていた。友美はそんな朋子を、両手でそっと持ち上げ、胸元で抱き締めた。

 

「でもこげん場合やけ、朋子ちゃんも元に戻るチャンスばつかめんかったっちゃろ♠ これってある意味、不可抗力っち言えるかもしれんちゃねぇ♣」

 

 友美が同乗を込めてささやくと、猫の朋子がコクリとうなずいた。

 

「にゃお〜〜☁」

 

 どうやらこれで、『そんとおりにゃんよ☁』と答えているつもりなのだろう。


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