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『剣遊記U』

第三章 幻のお宝を求めて。

     (9)

「大丈夫けぇ? 秀正ぁ……☁」

 

 孝治は心底から心配して尋ねた。

 

「大丈夫やて⛑ それよか、ひっさしぶりにド派手な喧嘩ばして、なんだか胸がスッとしとうけんね♥」

 

 などと強がりを言ってはいるが、秀正の左目には、パンダ🐼のような黒アザが、今もしっかりと色濃く残っていた。

 

その理由は、大ゲンカの最中だった。連中から殴られそうになった孝治の身代わりとなって、秀正が相手の拳骨を喰らったためなのだ。

 

「ほんなこつ、すまんっちゃねぇ☂ おれんせいでこげな顔になってしもうて☃」

 

「いいってことよ☀ 女の顔に傷ば付けるわけにゃいかんけねぇ☻」

 

「……ま、まあ、やね……☠」

 

 秀正の強がりは、孝治の気持ちをとても大きく複雑にしてくれた。だけど、それでも心意気がうれしいことに、一片の変わりもなかった。

 

 孝治と秀正は酒屋で乱闘を演じたあと、誰かの(お節介な)通報で駆けつけた衛兵隊から、なんとか逃げきる離れ業に成功した(その他の連中のことは知らん✄)。それからあれこれあって現在は、肩を組んで家路へと向かう途中。

 

 その家路とは、秀正と新妻律子が暮らしている新居への道である。

 

「着いたばい☞ あれがおれの新しい家やけ☻」

 

 ところが秀正が右手で指差す『新しい家』とやらを拝見するなり、孝治は一瞬、我が瞳を疑った。

 

「うわっち……あ、あれが……家ね?」

 

 秀正も以前は、孝治や荒生田たちと同じように、未来亭で間借りをして住んでいた。

 

 それが結婚を機に独立。愛妻律子のために、新しい家を建てた――とは、孝治も聞いていた――のだが。

 

「ば、薔薇の花だらけじゃん……おまえん家{ち}……薔薇屋敷け?」

 

 孝治は完全に呆れ果ての心境となった。理由は秀正の新居全体が、見事薔薇の花一色で埋め尽くされていたからだ。

 

 それこそ庭先は言うに及ばず。壁面から屋根の上まで、わずかの隙もなし。赤や黄色い薔薇の花から緑の葉っぱ、蔓{つる}などに覆い隠されていた。しかもそれらが満月の光に照らされ、幻想的で美しいと言えば美しいのだが――やっぱりどこかが変。

 

「これ……律子の趣味なんよねぇ……☁」

 

 薔薇だらけである自宅を、もろに見られたためらしい。それともうひとつ、孝治の驚きである心境を、いち早く察知したのもあるかもしれない。秀正が照れ臭そうな顔になって、右手で頭をタオルの上からかいていた。おかげでタオルが、全体的に見て右側に寄っていた。

 

「律子んやつ、こげな家にしてほしかったけ、おれに新しく建てさせやがったっちゃねぇ……♢♤」

 

「おまえ、早くも尻に敷かれとうっちゃねぇ☠」

 

(なるほど、これやけおれが初めに泊めてっちゅうたんば、必死に断りたかったっちゃねぇ☃ それも無理なかばい⛔)

 

孝治は声には出さないようにしてつぶやいた。

 

「ま、まあ、とりあえず入れ⛴」

 

 恥ずかしいモノを見られるだけ見られて、ある意味開き直りの境地にまで達したらしい。秀正が孝治を、玄関の所まで、右手の手招きで呼んだ。

 

「律子んやつ、変わっちまった孝治ば見て、さぞビックリするやろうけねぇ♥ こげんなったらもうそれが楽しみやけ、早ようそん顔が見たいばい♥☻」

 

 さらに開き直りついでか、秀正の顔には、いたずらを始める子供のような笑みが浮かんでいた。

 

「おれは別に、ビックリさせる気はなかっちゃけどぉ……☠」

 

 秀正の言葉で、孝治はなんとなく気恥ずかしい思いになってきた。それでもひさしぶりである律子との再会に、別の面でうれしさも感じていた。

 

「まあ、とにかく楽しみっちゃね☺」

 

 そんな孝治をうしろに立たせ、秀正が玄関の開きドアを開けた。

 

「おーーい! 今帰ったばぁーーい! きょうは珍しいお客さんもいっしょやけねぇ! おう、孝治、入れ☛」

 

「う、うん……☀」

 

 それからふたりそろって中へと入り、孝治を先に行かせたあと、秀正がバタンとドアを閉めた。

 

 その後、しばしの静寂のあとだった。

 

「いったい誰ねぇ、こん女ぁ! あんた、もう浮気したっちゅうとねぇ!」

 

「うわっち!」

 

「ぎゃん!」

 

 凄まじい勢いで、怒声と剣幕が炸裂。同時に孝治と秀正が、これまたそろって、ドアから外へと放り出された。


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