『剣遊記U』 第三章 幻のお宝を求めて。 (3) 「ぶうっ!」
飲もうとしていたビールを、またもや口から噴き出す秀正。孝治の顔に、再びぶっかかる。
この軽薄男は孝治の(ビールまみれである)顔を驚きの目で見つめつつ、震える声で尋ね返してきた。
「……ど、どっかでお会いしたことあったでしょうか、お嬢さん……ん? ほんなこつ、どっかで見たような……?」
「あのなぁ……☠」
だんだんとイライラ気分が胸に湧いてきた孝治は、ためらわずにキッパリと返してやった。
「おれたい! 鞘ヶ谷孝治なんだよぉ!」
「ぬわにぃーーっ!」
これにてようやく、秀正も気がついたご様子。すぐに孝治の顔を真正面から、じっくりと舐めるように見つめてくれた。これには孝治も、少々恥ずかしい気分となる。
それから秀正が絶叫した。
「ああーーっ! おまえは確かに孝治ぃーーっ!」
孝治はむしろ、冷ややか気分となった。
「やっとわかったんけ、相変わらずにぶいやっちゃねぇ☠♐」
ここで少々、今度はからかいたい気分になって、孝治はうっすらと笑みを、ふっと浮かべてみた。ところが秀正は、まるで信じられない物体でも見るような顔付きで、両目をしばしパチクリさせていた。
「……おまえ……ど、どげんしてまた……おれも知らんうちに女装趣味に走ったとや? なんか商売変えね?」
孝治は再び、キッパリと答えてやった。
「女装やのうて女性になったと♨ 本モンのやね♨」
「ぶうっ!」
秀正、三回目のビール噴き出し。何度も繰り返してビールを噴き出す理由は、秀正が自分の気持ちを落ち着かせるために、とにかくコップ一杯の一気飲みを続けているからである。
とにかくこれまた、孝治の全身はビールでびしょびしょ――にも関わらず、秀正はボソリとつぶやくのみだった。
「う……嘘吐け……☂」
孝治はちょっとだけカチンときた。
「嘘やっち思うとやったら、さわってみればよかろうも!♨」
孝治はやや脅迫的に言ってのけ、着ている胸甲を、秀正が見ている前でさっさと脱いでやった。するとTシャツ一枚である孝治の胸(しかもノーブラ)のかたちが表にあらわとなってしまい、秀正がどうやらギョッとした様子。大きく目を開いた顔となる。しかし孝治はそれには構わず、なかば強引に左手で、秀正の右手をガシッとつかんでやった。
「な、なんする気ね!?」
秀正のさらなる驚愕も、また無視。その手を自分の胸へと押し当てる。これは恥を忍んでのことなのだが、さすがに孝治は、顔面が紅潮化する思いになっていた。反対に秀正の顔からは、みるみると血の気が失せるように、青い筋が次々と浮かんでいた。
「お、大きかぁ! それにやわい!♋」
「これでわかったやろ☻ おれが性転換ばしたってことが……☠」
孝治としては、これで駄目押しをしてやったつもり。だが秀正は、もはや声も出ず、頭を縦に振るしかできないようだった。
それでもやがて、胸の鼓動が収まってきたらしい。ようやく質問のひとつも言えるようになっていた。
「……お、おまえが女になったっちゅうのは……ようわかったけ☁ で、なしてそげんなったとや? やっぱ趣味け?」
「それだけは断じて違うったい!」
前置きを強調して、孝治は答えた。
「説明すれば長{な}ごうなるとやけど、これは魔術ん事故でこげんなったと☠ とっても不幸な事故やったんやけな☠」
「魔術ん事故でねぇ……☁ まあ、わかった……⛐」
これでいったい、なにを納得したのだろうか。秀正がまっすぐに、孝治の顔をを見つめ続けた。
「なんおれん顔ば、じろじろ見よんね?」
「お、いや……ね☃」
わざときつい目線で返した孝治に、秀正がぬけぬけとほざいてくれた。
「いやね……孝治はもともとから女顔やったけ、これで本モンになっても、いっちょも違和感なかっちゃねぇ……っち思うたもんやけ☻ これってもしかして、神が正しい選択ばしたんかもしれんばい♪」
「うわっち! それば言うんやなかぁ!」
孝治はどこからかハリセン(出所不明)を取り出して、秀正の頭をバシーンとしばいてやった。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |