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『剣遊記U』

第三章 幻のお宝を求めて。

     (2)

 思いついた場所から目当ての酒屋までは、幸いにしてすぐ近く。おかげであっと言う間に到着した。

 

「店ん親父、おれんこつわからんちゃろうねぇ……まっ、よかっちゃけど♥」

 

 目的の酒屋は、孝治にとっても常連の店だった。しかし突然の性転換以来、かなり御無沙汰にしていた。もしかすると、本当に忘れられているかも。

 

 だから恐る恐るの緊張した気持ちで、孝治は店の開き戸を、そっと開けてみた。

 

 一箇月ぶりくらいの入り口を通って中を覗いてみると、店内は四分の三くらいほどの入りであり、それなりに酔客たちでにぎわっていた。

 

「ごめんくださぁい……☁」

 

 孝治は一応、遠慮的な声で入店してみた。だけど、声も女性に変わっているせいもあるのだろう。店の主人は孝治の予想どおり、たった今入った女戦士が、ちょっと前まで常連で来ていた男性客だとは、まったく気づかない様子でいた。

 

「いらっしゃい☃」

 

 こちらに振り向きもせず、カウンター内で皿を布巾で拭きながら、ぶっきらぼうな態度で応じてくれるだけだった。

 

(まあ、もともと愛想のやおない親父やったけねぇ〜〜☠ でも料理がおいしいけ、常連になっとったとやけどね☁)

 

 などと孝治は前向きに考えて、特に立腹する気にもならず。それよりも店内のあちこちを見回してみた。

 

 すると――いた。

 

「あの野郎、新婚早々やっちゅうのに、もう違う女と飲みようばい☠」

 

 目当ての男は、店内の一番奥のテーブルにいた。しかも派手系な衣装の女性を右側に座らせ、ビールなんかで乾杯🍻を繰り返してもいた。

 

 あまり目立たない感じの、市井{しせい}の服装をしている男性であった。だけど、頭に白いタオルなんかを巻いている姿が、これまた妙に特徴的ともいえた。

 

 そんな男に孝治は、そっとの感じで近づいてみた。そこでうしろから聞き耳を立ててみれば、女性相手に話している内容が、あちこちの遺跡っとか古城を探索して、多くの財宝を手に入れたという冒険談がほとんど。要するに、自慢話の域を出ないものばかり。またそれも、ほとんどが孝治も知っている話であり、かなり脚色もされていた。

 

 早い話、白タオルの男の職業は、盗賊なのである。

 

 ちなみに盗賊とそのまま表現をすれば、なんだか聞こえが悪いかもしれない。だが、彼らの本業は話のとおり、遺跡の探索や発掘などである。

 

泥棒や空き巣などの盗人とはまったくの別物であることを念のため、ここでは特に強調をしておきたい。

 

 本筋に戻る。孝治はためらう気などまったくでなく、まっすぐに男のいるテーブルの左横に立った。そこで挨拶。

 

「よっ! 和布刈秀正{めかり ひでまさ}くん、ひっさしぶりぃ♡」

 

 それからいきなり馴れ馴れしく、男――和布刈秀正の左肩を右手でポンと軽く叩き、さらになんの遠慮もなしで、派手系女性とは反対の左側に、ドシッと座り込んだ。

 

「ぶうっ!」

 

 これに秀正は、なにがなんだかわからないの顔。口に含んでいたビールを、勢いよく噴き出した。

 

 孝治の顔面に向けて。

 

「だ、誰ねぇ! おまえは?」

 

 急な女戦士の登場で、秀正は早くも狼狽したご様子。しかし孝治は構わず、シレッとしたしゃべり方で、秀正の右側にいる派手系女性に言ってやった。

 

「御苦労さん♡ もう帰ってよかっちゃよ♡ あとはおれが引き受けるっちゃけ♡」

 

「あんた! こげな別ん女がおったとね! 二股{ふたまた}かけるやなんち、人ば馬鹿にせんといて!」

 

 女性は激怒して席から立ち上がり、ドドドッと足音も高らかに、そのまま店外へと駆け出した。

 

「ああっ! ちょ、ちょっと!」

 

 秀正も最初は椅子から立ち上がって、慌てて女性を呼び止めようとした。だけど、実はそれほどの未練はなかったようだ。すぐに気を取り直した感じで腰を下ろすと、今度は孝治を相手にして話しかけてきた。右手にビールがなみなみとそそがれているコップを持って。

 

「まあ、よかばい♠ それよか君、どうやら戦士しようみたいっちゃけど、けっこう可愛いっちゃねぇ♡ で、おれのどこば気に入ってくれたわけ? なんでか知らんけど、おれの名前も知っちょったみたいやし♡」

 

 孝治は秀正の軽薄ぶりを前にして、ドスを込めたセリフを言ってやった。

 

「ええ加減にしたほうがええばい、秀正よぉ☠ こげんことばっかしやりよったら、いつか女に刺されるっちゃけね♐」


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