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『剣遊記U』

第三章 幻のお宝を求めて。

     (14)

 そんな風に考えている孝治の胸の内を、なんだかわかっているかのようだった。赤い顔の秀正が孝治の頭を両手でガシッとつかみ直し、テーブルの上に広げ直した地図のほうへと、無理矢理的に振り向かせた。

 

 孝治の首の骨が、ゴキッと鳴った。

 

「うわっち!」

 

 このとき律子は、こちらも亭主に負けず劣らずの赤い顔で、とっくに台所へと退散済み。それを見てからか、秀正が叫んだ。

 

「とにかくったい! 宝の場所は、こん地図に書かれちょる山の奥の廃城やけね……っち思うけん☁ やけん鍵のこじ開けはおれがやるとして、孝治はそん間の護衛ば頼むけね☞ それでよかっちゃろうが!」

 

(いくらカッコばつけたところで、おまえん頭ん中ば丸見えなんやけねぇ、ヒデくん☻)

 

 はっきり言って、話のすり替えが見え見え。孝治は内心での大笑いを繰り返した。しかし表面上では、大真面目な態度で聞く素振りをしてやった。

 

「ああ、よかっちゃよ☀」

 

(この野郎、ほんとは産まれる子供が男ん子か女ん子のほうが気になっとうくせに、無理ばしちゃってくさぁ、ヒデくん♡☻)

 

 もちろんこのような本心は、一応隠す。孝治は真面目な質問を続行した。

 

「それはよかっちゃけどぉ、おれたちふたりだけで、ほんなこつ大丈夫なんやろっか?」

 

「問題はそこばい☞」

 

 秀正は返答に、これまた妙な力を込めていた。右手の人差し指を孝治にビシッと突きつけ、その問題点に答えてくれた。

 

「できりゃあ魔術師がふたりおったら、もっと助かるんやけどねぇ⛑ 廃城の扉には魔術の封印がしてあって、おれの手に負えんのもありそうやし……しかも城の警護に凶暴なドラゴン}が放し飼いにされちょるっち言われとうとやけ⚠ やけん、そげんなったら魔術師がひとり解錠しよう間に、もうひとりはドラゴンに対処せんといけんけねぇ♐☁」

 

「なるほどぉ、魔術師の援護があったほうが、おれかて仕事が楽やけねぇ✒」

 

 孝治は『そんとおり♠』だとうなずいた。なんにせよ、探索行は万全を期したほうが、とにかく最良に決まっている。山分けがどうのこうのといったひと悶着も、生きて帰ればこそ――のラッキー話なのであるから。

 

「そげんやったら、ふたりの魔術師ん内のひとりは友美に頼むとしてやねぇ……✐」

 

 そこまで言ってもうひとりが、孝治の頭に浮かんでこなかった。なにしろ天才魔術師である美奈子は、現在別の仕事で不在中――なのだから。

 

 ここで人選に悩む孝治の代わりに、秀正がズバッとご指名をしてくれた。

 

「おるっちゃろうが☀ 裕志が帰っとうとやろ☛」

 

「うわっち! そうやった☆」

 

 孝治もすぐに、両手をポンと打ち鳴らした。

 

「裕志やったらおれたちと同期やけ、頼んだら引き受けてくれるっちゃね☆ なしてそれにもっと早よ、気ぃつかんかったんかねぇ♡」

 

「早速やけど、あしたにでも話ば着けちゃってや♐」

 

 もはや決定事項と言わんばかりに、秀正も大きく盛り上がっていた。そんな明るい雰囲気に水を差すつもりはないが、孝治はここで慎重――かつ神妙に身構えた。

 

「わかった……っち早く言いたいとこやけど、ひとつ問題があるけね☠」

 

「ひとつ問題け?」

 

 実際に水を差された気持ちになったのだろうか、目を点にした秀正に、孝治は空気が急に、(自分の周り限定で)重苦しいモノに変わったような感じで答えてやった。ツバをゴクリと飲み込みながらで。

 

「そうばい♋ 裕志ば誘えば、必ず『おまけ』が付いて来{こ}ようが☠」

 

「あっ、そうやった☠」

 

 さすがに秀正は、孝治の親友であった。すぐに孝治の言わんとしていることが、頭にピン💡ときたようだ。しかも、あまり芳{かんば}しくない話として。

 

「そうなんよねぇ……裕志には『おまけ』が取り憑いとうっちゃねぇ……☠」

 

 ひどい言い方ではあった。だが事実であるから仕方がない。なぜなら秀正も酒屋で『あれ』呼ばわりしたように、『おまけ』の悪行を、嫌というほどに知り尽くしているからだ。

 

 それでも再度念を押すかのようにして、孝治に尋ね返してきた。

 

「そげん言うても、他に魔術師の心当たりはないっちゃろ?」

 

「なか……☠」

 

 孝治は深いため息を吐いた。本来、『おまけ』の魔手から逃れるための、緊急避難的冒険行であったはずなのだ。それがこのような話の成り行きでは、まさに藪蛇ではなかろうか。いや、手段の大型化によって本来の目的を見失うという、本末転倒的話の展開とさえ言えそうな気がしてくる。

 

 だからと言って、ここまで盛り上がった計画をやめる気も、今さらまったく起きなかった。

 

(けっきょくおれは、あいつから絶対逃れられん運命にあるっちゃろうねぇ……☠)

 

 などの考えにまで行き着いてしまえば、あとはある程度の覚悟もできてくる――というもの。孝治は腹を決めて、秀正に強い口調で言い切った。

 

「わかった✋ 裕志にはおれがあした頼んでみるけ✐✉ なるべく『おまけ』の耳には入れんよう気ぃつけるけど……まっ、無駄な足掻{あが}きっちゅうもんやね☢ 裕志は『おまけ』の言いなりやけねぇ☠」

 

 秀正も孝治のうしろに立ち、苦しい思いである元男の女戦士の左肩に、ポンと自分の左手を乗せてくれた。人をんあだか、憐れんでいるような目線でもって。

 

「今度の旅は重武装やね☢ 女の操{みさお}ば、なんとかしてでも守り抜くっちゃぞ⚠⛔」

 

「そげんする☠」

 

 こればかりはたとえ冗談のつもりであっても、真剣な気持ちで受け止めるしかない孝治であった。


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