『剣遊記U』 第三章 幻のお宝を求めて。 (13) そんな驚きの思いになって、孝治は律子に改めて顔を向け直した。
見れば彼女も秀正と同じように、顔全体を真っ赤に染めていた。
「もぉ〜〜、ヒデん馬鹿ぁ〜〜! もうちっとみんなに内緒にしとくっち言いよったとにぃから〜♡」
「……なるほどっちゃねぇ〜〜☀」
ここまで話が進めば、なおも空気が読めない野暮な野郎など、恐らくこの世には存在しない――と思いたい。実際に孝治も、これでようやく納得の気持ちに至ったほどであるから。もちろんすぐに訳知り顔の気分となって、孝治は秀正の左肩を、ポンと軽く右手で叩いてやった。
軽くと表現をしたが、実は少々の力💪も込めて。
「まっ、とにかく、おめでとさんやね♡ そげな理由やったら仕方なかっちゃねぇ♡」
続いて律子にも、再び顔を向けた。
「それやったら今回は大事ば取って、家におったほうがええっちゃね♡ 愛する旦那ば必ず無傷で帰すこと、こんおれが約束するっちゃけ✊ とにかくおめでとうやね☺」
「あ、ありがとう……ヒデんこつ、お願いするばい⛑♡」
先ほどまでの勇猛ぶりとはうって変わり、律子が孝治に向かって実にしおらしく、深々と頭を下げた。
これにて一応、懐妊祝いの言葉は終了。孝治は自分の顔をにへら笑いに変え、秀正の左肩を今度はバシッとさらに強く、右手でひっぱたいてやった。
「痛てっ! なんしよんね!」
秀正の文句は聞かない振り。孝治は言いたいこと(冷やかし言葉)を言ってやった。
「それんしてもヒデくん、おまえもやることがずいぶん早いっちゃねぇ♡☻ 結婚がこの前でぇ、新婚旅行から帰って、まだ間もないはずっちゅうとに、確か……うわっち?」
孝治はこのとき、ある事実に気がついた。すぐに両手の十本の指を立て、苦手だけど暗算での計算を始めた。
「……おまえら結婚してまだ……二ヶ月も経ってないじゃん♐」
「も、もう、よかやん♥」
完全熟柿顔となっている秀正が、慌てて孝治の計算中である両手を、自分のこれまた両手で、ギュッと上から握り締めてくれた。
つまり計算ばすんな――ってこと。ついでに、もうひと言。
「頼むけ……おまえがおれんこつ、『ヒデ』っち言うのやめちゃってや☠✄」
「うわっち! 痛ててててっ!」
だけどこれにて、ふだんは勘のにぶい自分を自覚している孝治にも、さすがにピンとくるモノがあった。でもこれは、口には出さないでおく。
(こいつら『出来ちゃった婚』やったっちゃね♡☻ 秀正の野郎としては、既成事実作りに成功したっちゅうわけやねぇ、ヒデくん♡)
癪なので、頭の中で言い続けた。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |