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『剣遊記W』

第二章 究極の焼き肉。

     (5)

 宴もたけなわ。焼き肉とお酒の席が続き、おまけに満腹感も加わって、座がなごやかとなった時刻であった。

 

「ねえ、ワイバーンワイバーンってよう言うとやけど、本物ってどげな怪物なんやろっかねぇ?」

 

 ナンパした女の子のひとり――ドゥーサ{蛇髪人}娘の何気ない質問が、この後の話の展開を、大きく変える源{みなもと}となった。

 

「ねえ、荒生田さんは見たことあるとぉ?」

 

 フェアリーの娘も興味を抱いたらしい。今やすっかり顔面真っ赤の荒生田に、甘えの仕草で尋ねていた。すると当然、サングラスの戦士が、これに応じないはずがなかった。それも相変わらずの大言壮語が、見事に絶好調となっていた。

 

「わははははははっ! 確かに巷では凶暴で残忍な怪物っち恐れられとるけど、そげなんオレ様の前では、ちいとも大したことなかけんなぁ! しかぁーーしっ! このオレかて一応一目置いてやっとうやつなんやけ、ここはひとつ実物ば前にして説明したほうがいいかもしれんばいねぇ☆☆☆」

 

「実物やったら、今厨房にあるんやなかろっか☞」

 

「そうけ! なるほどぉ☆」

 

 お猪口でお酒をチビチビしている帆柱からの助言を受け、荒生田が早速裕志に命令した。

 

「ゆおーーっしぃ! 裕志ぃ! 今から厨房行って、ワイバーンば見せるよう話ば着けて来ぉーーい!」

 

「はぁ〜〜い☁」

 

 先輩のわがままには逆らえない裕志が、面倒臭そうに立ち上がった。

 

「あっ! あたしも行くぅ!」

 

 裕志の身を案じながらも、実は自分もワイバーンを見てみたい由香が、いっしょになって席を発つ。

 

 このふたりが部屋から出たあとも、荒生田のワイバーンに関する自慢話が止まらなかった。

 

「実物ば見せる前に言うとくっちゃけど、ワイバーンってやつは味はええくせにすっげえ恐ろしか顔しとるけ、ビックリして腰抜かして悲鳴ば上げちゃあ駄目やけねぇ☠」

 

「なんなのぉ♡ それってぇ♡」

 

「すっごい楽しみっちゃねぇ〜〜♡」

 

「早よ見たかぁ〜〜♡」

 

 女の子たちの可愛い娘ぶった反応っぷり。これにて荒生田のスケベ親父的本能が、ますますもっての大炎上。ついでにつまらぬ発案も、このとき頭の中に浮かんだ。

 

「そうっちゃ☀ ワイバーンば見て『きゃあーー!』とか『怖かぁーー!』とか言った子に、あとで罰ゲームっちゅうのはどうやろっかねぇ?」

 

「きゃん♡ それっておもしろかぁ〜〜♡」

 

「明美、絶対驚かんけねぇ〜〜♡」

 

「陽子はビックリして、周りん人ば石にしちゃあ駄目やけねぇ♡」

 

「いーだ♡ そげなこつせんけねぇ♡」

 

 フェアリー娘がメドゥーサ娘をからかっているところで、裕志と由香が厨房から戻ってきた。

 

「おっ☆ 話は着いたや?」

 

 すぐに荒生田が成果を尋ねた。これに裕志は、かなり浮かぬ顔付き。こっくりと、うなずきだけで返した。この間、終始無言。

 

「ゆおーーっしぃ! 行こっかあ♡」

 

 なんだか煮え切らない態度でいる裕志に構わず、とにかく了承の返事を得たものとして、荒生田がさっと立ち上がった。それから女の子たち三人を連れて、喜び勇んで厨房へと向かった。

 

 なお、帆柱と到津は個室に残って、焼き肉とお酒を続けるようである。


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