『剣遊記閑話休題編T』 第一章 未来亭休業の日。 (5) 「あじぃ〜〜♨♨♨」
窓を全開にしている、未来亭三階のある個室の中。戦士鞘ヶ谷孝治は、まさに炎暑の真っ盛り。燃えつくような高温の室内で、思いっきりにうだっていた。そこへドアの外から、いつものなじみの声がした。
「孝治おるぅ? 今戻ったっちゃよぉ!」
「鍵なら開いちょうばぁい✁」
孝治は生返事で応えてやった。すぐにドアが開き、友美と涼子が部屋に入ってきた。そこで孝治をひと目拝見するなり、友美と涼子はそろって、高い驚きの声を唱和させた。
「きゃっ! なんね、そん格好ば!」
『でたん凄かぁ〜〜っ! 孝治もなかなか過激っちゃねぇ☀』
ふたりから驚かれた孝治は、言われた件について、ほとんど居直る気分で言い訳をしてやった。
「過激っちゅうたかて、ほんなこつ暑かやけ、しょんなかっちゃよ♨」
「まあ、確かにそげな気持ちもわかるっちゅうもんやけどねぇ……☠ 孝治も女ん子に変わって以来、でたん変わったもんちゃねぇ☀」
「それば言わんとってや☠」
友美の顔には明らかに、『やり過ぎばい☢』の色が浮かんでいた。それと言うのも、孝治はふだん着ている革製軽装鎧も衣服もすべて脱ぎ散らかし、それこそ水色のパンティー一枚(しかも上半身なにもなしのトップレス姿)になって、椅子に馬乗りの格好で反対向きに跨り、見事にへたばっているからだ。
一方で孝治のほうは、『またそれたい☠』の思いでいっぱい。突然の事態で男性から女性への性転換以来、もう何度も繰り返し繰り返しの話であるがゆえに。
その件はもう置いて、実際に孝治はその姿格好で右手に持った団扇{うちわ}を扇ぎ、いかにも酷暑でバテバテのご様子。自慢ではないが(本当は少々自慢☻✌)、大きめである胸も丸出し。あえてご指摘を行なえば、まさに淫{みだ}らなその姿。そんな孝治に、さすがの涼子も呆れ気味の顔となっていた。
『そげん暑かとやったら、お店に行けばええっちゃに♠ 酒場やったら冷房魔術が効いとうけ、けっこう涼しいっちゃよ♢♡』
ところが彼女の声が聞こえる孝治は、これに頭を横に振って応じるだけ。
「店ん中でおれがブラブラしとったら、おれがほんなこつ暇ば持て余しちょうっち思われるっちゃよ☠ おれはそれが嫌なんばい☂」
『ふぅ〜ん✄ それって虚しい見栄っ張りってとこばいね☝』
「なんか言うたけ?」
『いいえ、なんも♪』
横目でキラリとにらんでやった孝治に、涼子は口笛を吹いてとぼけていた。
「それにしたかて大胆な格好ばいねぇ♐ こげな現場ばもし荒生田先輩に見られたら、それこそ天下の一大事やなかと☢?」
「それやったら心配要らんちゃよ♥」
未来亭最大の問題児――荒生田の名前を出して、友美は注意をうながしたつもりなのだろう。しかし孝治は、これを鼻で笑って返してやった。
「先輩やったら、裕志や到津さんたちば連れて、また遠くに宝探しに行っとうけね♡ やけんおれがこげな格好にもなれるとばい♡ でも由香かてきっと淋しいっちゃろうねぇ♠ 裕志ばまた、先輩から拉致みたいに冒険に連行されたとやけねぇ☠」
「その由香ちゃんからなんやけど☞」
給仕係リーダーである由香の名前が出たところで、友美が話を本題へと移らせた。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |