『剣遊記閑話休題編T』 第一章 未来亭休業の日。 (1) 「にゃん♡ あさってからうちの店、店にゃい改装で一週間お休みににゃるとでしょ♡」
厨房で給仕係の夜宮朋子{よみや ともこ}がワクワク顔ではしゃいでいる理由は、実際に未来亭が明後日、長い一週間の店休日を予定しているからである。その日が間近に迫っているともなれば、心ウキウキも仕方のない話であろう。しかも見た目でわかるとおり(文章だけじゃわからんか☻)、彼女のお尻から伸びている猫しっぽまでが、左右にピコピコと振られていた(ふつう、感情表現をしっぽで表わす動物の行動習性は、犬の専売特許なのだが……☁)。
「そ、そうっちゃけどぉ……朋子、いったいなん考えよん?」
給仕係のリーダーを務める一枝由香{いちえだ ゆか}が、一見なるべく冷静な素振りを演じつつ、逆に尋ねる感じで朋子に言葉を返した。そこまでは良いのだが、実は由香自身も内心では、長期の休暇を心待ちにしていたりする。
無論、由香の本心など給仕係一同、公然の秘密にしてあった。
「それにゃったらみんなで海ば行きましょうよう☀ あたし、よう知っちょる『海の家』があるにゃんよ♡♡」
「ほんなこつ☀☀」
ここで由香の顔が見事に、パッと煌{きら}めいた感じへと変わった。理由は朋子のその言葉を、実は待っていた由香であるのだから。
これにてふたりは、たちまち意気投合。だけどきょうのところは閉店間際でもう遅いから、あした給仕係の面々を改めて集め直し、詳しい旅行計画を立てる段取りにした――と言うところで、本日はこれにてお開き。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |