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『剣遊記12』

第二章 巨象に乗った戦士たち。

     (9)

 時刻と舞台は一瞬に変わって翌朝。

 

「では店長、行ってきますっちゃね☀」

 

「行ってきまぁーーっす!」

 

『あたしも行ってきまぁーーっす!』

 

 旅の準備を整えた孝治、友美、それからおまけで涼子の三人は、見送りに立つ黒崎と勝美、さらに給仕係たちに向け、元気いっぱいに出発を告げた。もちろん涼子だけは見えないことなど、もはや定番。孝治も友美も、ここでツッコミを入れるような野暮は、初めっから行なわなかった。それよりも三人の目の前には、早くも巨象のラリーの背中に跨っている、城野博美の凛々しい姿があった。

 

 黒崎がその博美に、下から大きめの声をかけた。

 

「ではよろしく頼むがや……孝治に友美くん、それに博美さんもな」

 

「おうよ! ばんない(沖縄弁でこれも『たくさん』)任せていみそーれ!」

 

「くれぐれも気をつけるがやぁ! たとえどんな場合になってもなぁ!」

 

「店長、それはちばり過ぎってもんばぁよ☆」

 

 黒崎としては臨時雇いとは言え、本来ならば大切な宿泊客である博美の無事を心底から切実に願っていると、孝治はその話を勝美から聞いていた。だが豪傑である博美相手では、なかなかその思いが通じそうになかった。

 

「店長、博美さんのことならおれがなんとか抑え役ばしときますけ……まあ、任せてくださいっちゃ♡ それはそうと、先輩と裕志が遅いみたいですねぇ?」

 

「ああ、そうだがや」

 

 博美の飛び入り参加の件も、孝治はすでに黒崎から話を聞いていた。同時に例のふたり組が、まだこの場(未来亭の正面入り口)に姿を現わしていないことも、やはり心配と憂鬱の元であった。

 

『たぶん……ちゃけど、きょうの朝が出発やっち知っちょうくせにやねぇ、きのうの夜から飲み歩いてんやなか?』

 

 こっそりとではあるけれど、孝治の頭上を浮遊している涼子が、含み笑い気味で孝治と友美相手にささやいてきた。

 

「……大方、そんとおりっちゃろうねぇ……っち思うたら、来ちゃったばい☜」

 

 友美がそんな涼子に、同調したとたんだった。当のふたり組(荒生田と裕志)がちょうど遅れて現われたのだから、世の中やっぱりおもしろいものである。


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