『剣遊記12』 第二章 巨象に乗った戦士たち。 (8) 「おや? 君も今の話を聞いていたのかね?」
荒生田がひとりで変に盛り上がっている間も、終始冷静を貫いていた黒崎であった。その彼が、室内にいる者の中で一番早く、博美の来室に気がついた。
「おうよ♡」
しかも店長が勧めるよりも先に、当の博美が勝手にドアを開けて入ってきた。
「おれはせっかくひさしぶりで日本に帰ったってのに、でーじな目的が勝手に自滅してたんだわけさー☠ で、ちばりょーにも当面することがなんもなくて、このまんまじゃおれの体がいっぺーひんがーになっちまかと心配してたんばぁよ♋ その久留米の『じんのはる』公爵のことなんか知らねえやしが、このおれもなんかの役に立ちそうってやっしー? おれも仕事いっしょしてぬーやが?」
「う〜ん、そうだがねぇ?」
突然の飛び入りである、博美の参加表明。黒崎はこの申し出に対し、執務席の椅子に座ったまま自分のアゴに右手を当て、真剣に考える素振りを見せた。
「まあ、君はあくまでも当店のお客様であって、僕がいろいろと指図することはできんがや。それに万が一の事故があってもいかんぎゃあしなぁ……」
「それなら心配要らんだわけさー☆ やーがおれを臨時で雇ってくれりゃええやっしー♡」
「う〜む……」
「店長、良かやなかですか♡☀」
どこまでも慎重姿勢の黒崎。また、けっこう楽天的な博美の間に当然のごとく、荒生田が割って入った。
「彼女の安全やったら、こんオレが万事保証してやるっちゃけぇ☀ 今回の旅の華に孝治だけやのうて博美さんかて来てくれるとやったら、大いににぎやかになってけっこうなことっちゃねぇ♡♪」
「荒生田さん、なんか仕事ば勘違いしとらんね?」
勝美の小言も、荒生田の耳には入っていなかった。しかし黒崎のほうは、なんだか前向きの考えに変わっていた。
「まあ、荒生田がそこまで言ってくれるんだったら、僕としても認めるしかないがやか」
「ゆおーーっし! 決まったっちゃねぇ☆ 博美さんもオレについて来ちゃってやぁ♪☺」
荒生田が右手をグー、左手をパーのかたちで、自分の胸の前でバシッと叩き合わせた。博美もまた、同じような仕草を繰り返し。バシバシッと大きな音を鳴らしてくれた。
「あたぼうよぉ! ちょっとした危険くらいなんくるないさー☻♥ よろしく頼むだわけさー☀☀」
これにて荒生田と博美の間で、話が成立。店長である黒崎は、ほとんど口をはさめなかった。
「……わかったがや。君たちが好きなようにするがええがや。一応の責任は、この僕が必ず持つけどな」
「だいたいの予想ばがばいしとったんやけどねぇ……相変わらず押しの強か人ばいねぇ☻」
勝美もやはり、空中で呆れていた。背中の羽根を、プルプルと震わせながらで。
とにかくふたり(荒生田と博美)の前に白旗を揚げるしかない、未来亭の若旦那とその秘書であった。そんな苦笑気味の思いと同時、ある種の信頼と期待も、黒崎はサングラスの戦士に、実はかけていた。
「まっ、この押しの強さが荒生田和志という男の魅力なんだがね。それがまた、僕が彼を手放さない理由のひとつでもあるんだがな」
「そがんもんですかねぇ……☹」
勝美は今ひとつ、理解のできなさそうな顔をしていた。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |