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『剣遊記12』

第二章 巨象に乗った戦士たち。

     (7)

「ほう、仕事ねぇ〜〜☻」

 

 とりあえず象の騒ぎが収まったところで、荒生田が黒崎の執務室に呼ばれていた。

 

 そこでの話は当然、孝治のときと同じ内容である、久留米市の件での仕事依頼であった。

 

「まあ、オレかて未来亭の一員やけん、店長の依頼があれば、どこだって行くっちゃけどね♡ で、いくら儲かりまっか?」

 

「やっぱり、そうきたがやか」

 

 この、なかば予想どおりだった荒生田の対応ぶり。黒崎は内心で苦笑を浮かべた。

 

 その本心は隠して、孝治に話したときと同じ内容を、黒崎は荒生田相手に繰り返した。

 

「なるほどっちゃねぇ✍ ごくふつうの、ようあるお家騒動っちゅうことやね✄ で、オレたち戦士が出向くっちゅうからには、斬ったはったがあるかもしれんっちゅうことけ?」

 

 一応納得の相槌を打ちながら質問を返す荒生田に、黒崎が念を押すようにして、さらに言葉に力を込めた。

 

「そう言うことだがや。暴力沙汰はなるべく避けるべきだが、この内容に不服があれば、断っても構わんがね」

 

「店長、そぎゃんなこつ言うたら、こん人ほんなこつ断りますばい☢」

 

 横から勝美が口を出すが、荒生田はサングラスの奥から、横目で彼女にチラッとウインクを送り返してやった。

 

「がばいぢくーか(佐賀弁で『変』)ねぇ☠」

 

 背中に寒気の走った勝美にはそれこそ構わず、荒生田が右手でドンと、自分の胸を叩いた。力を入れ過ぎたせいか、ゴホンゴホンと咳もしたけれど。

 

「いんや、店長直々からのご依頼、こんオレが請けさせてもらいますっちゃね✌」

 

「ほう、それは珍しいがや」

 

 意外なほどあっさりと頭を縦に振る荒生田を前にして、失礼は百も承知ながらも、黒崎が大いに感心した。

 

「君が承諾してくれて、僕としても大助かりだがね。孝治にはすでにその仕事を頼んでるんだが、裕志も参加者に名を連ねていいがやか? あとで僕からまた、直接話を持っていくつもりなんだが」

 

 これに荒生田が、ふふんと頭を横に振った。

 

「裕志んやつなら店長がわざわざ行かんでも、こんオレが『来いっ!』っちゅうたらそれで済みますっちゃよ✌ それよかひっさしぶりに、オレの剣の実力ば発揮する場ができたっちゅうことが、オレは感謝感激ですっちゃねぇ〜〜♪」

 

「いえ、まだ剣の出番があるなんち、決まってなかばってん……公爵からの依頼やけど、できるだけ騒ぎば起こさんようしてほしいっちゅうごたるんやけどぉ……♋」

 

 かなりの心配顔になってきた勝美には今度も構わず、荒生田が執務室内で勝手に剣をスラッと引き抜いた。しかもそれをビュンビュンと振り回すものだから、勝美は慌てて荒生田の近くから飛び離れた。

 

「きゃっ!」

 

「ゆおーーっし! 今宵はひっさしぶりで、オレの愛剣に人ん生き血ば吸わせちゃることができるっちゃねぇ☆♡ 悪い野郎どもは皆、首ば洗って待っちょけっちね☀☠」

 

「ぞうたんのごと……そげな斬ったはったやないとやけどねぇ……☁」

 

 こんな風で、勝美が荒生田の相変わらずなビッグマウスに首を洗う――じゃない、首をすくめて呆れているところだった。今度はドアの外から、客人であるはずの博美の声が聞こえてきた。

 

「なんかじょーとーな話だある♡ おれも仲間に入っていいっさー♡」


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