前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記12』

第二章 巨象に乗った戦士たち。

     (4)

 このとき象――ラリーの背中に跨っている荒生田は、人一倍強いおのれの自己顕示欲が、見事大満足気分の最中にいることを自覚していた。

 

「ゆおーーっしぃ! さすがは象様のお通りでえって感じっちゃねぇ☀ 道行く市民の皆様みんながみんな、こんオレたちに注目ばしよんやけんねぇ☆♡」

 

 実際、大通りのド真ん中を闊歩する巨象の登場で、街の人々は全員仕事の手も足も止めていた。もちろん滅多にはお目にかかれない象の姿に、全員が視線を見事釘付けにされているのだ。

 

「へぇ〜〜、ここじゃあでーじなほど、象見てどぅまんぎるもんかねぇ〜〜♐」

 

 この状況には、ラリーの頭に乗っかり進行を指図している博美のほうが、逆に驚きの心境を隠せない様子でいた。

 

「……そ、そりゃそうですっちゃよ♋」

 

 そんな博美に、ラリーのお尻近くで跨っている裕志が、青い顔して無理に応えた。この虚弱児はやっぱり、象の背中で乗り物酔いをやらかしたようだ。

 

「こ、この日本じゃ……ぞ、象はよっぽど大きい動物園……やないと見られんとですからぁ……や、やきーこげな街ん中で象が歩くなんち……み、みんな信じられんとですよ……はぁ……☠」

 

「ナマ言うんやなか! 要はオレたちがこげんして目立っちょうとやけ、それでよかっちゅうもんやろうがぁ☀☀」

 

 裕志の説明の途中だった。しっかり調子に乗っている荒生田が、青色吐息である後輩魔術師の背中を、冗談半分だろうけどバチンッと、思いっきり右手で叩いてやった。大きな象とは言え、その背中の上で――である。これはかなり器用な行ないと言えるかも。

 

「うぷっ!」

 

 とにかく今の衝撃で、裕志は本当にモドすかと思った。一般市民の注目の中、往来のド真ん中で。

 

 このような馬鹿ふたりを背中にして、博美がラリーを、大通りの真ん中でいったん立ち止まらせた。なぜなら博美と荒生田たちの前に、周囲の建物を見下ろしているような、ひと際高い木造建築物が現われたからだ。

 

「あれやが? あの四階建ての建てモンが、やったーらの言いよう未来亭ってわけだばぁ?」

 

「そうっちゃ☆ あれがオレたちの根城になっちょう未来亭っちゃね☀」

 

 荒生田も当然ながら、自分の本拠地――ほとんど自宅とも言える存在に着いたところに、とっくの昔で気づいていた。

 

「ゆおーーっし! 未来亭のご主人様の凱旋帰国やけん、ここは盛大なお祝いばしてもらわんといけんねぇ☆☆ 全員こん象ば見て、ビックリして腰ば抜かすやろうけぇ♡♥」

 

 なぜだかいつの間にやら、自分が未来亭の主人公気取り。今のサングラス野郎の頭の中は、自分が象に乗っている雄姿を店の面々が見てくれて、また人気好感度ともに大ブレイク間違いなしばい――と、過大な期待感でふくらみきっているのだ。


前のページ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system