『剣遊記12』 第二章 巨象に乗った戦士たち。 (3) もちろん幽霊である涼子の声は、孝治と友美以外には聞こえなかった。そこでやや大根役者気味を自覚しながら、孝治はすぐに窓際へと駆けつけた。最初に自分が気づいた振りをして。
「うわっち! 荒生田先輩が帰ってきたっちゃあ!」
孝治のあとから友美も駆け寄り、いっしょに窓辺で並んだ。小声で涼子に注意をしながらで。
「涼子ったらぁ……いきなり大声ば出さんといてぇ☠ 店長と勝美さんばごまかすの、大変なんやからねぇ〜〜☁☂」
しかし当の幽霊少女は、逆に両方のほっぺたをふくらますだけ。
『そげん言うたかて、現に先輩たちが帰ってきたっちゃけ、しょうがなかっちゅうもんやない☠ しかもよぉ……あれば見てん☞』
「うわっち!」
「きゃっ!」
初めは孝治も友美も、先輩たちはどこっちゃね――と、外の景色をキョロキョロしていた。ところが涼子が右手で指差した方向の先では、孝治も友美も驚くような光景が展開されていたのだ。
「な、なんね……あれぇ?」
「あ、あれは……わたしも動物園で見たことあるっちゃけどぉ……♋」
「何事だがね?」
孝治と友美のふたりで驚き眼になっていると、うしろから黒崎と勝美も寄ってきた。無論黒崎は、いつもの冷静能面店長の看板に、とてもふさわしい態度でいた。
「ほう、あれは象だがね。その象の背中に荒生田と裕志と……もうひとりは初めて拝見する顔だがや。とにかくふたりが帰ってきたか」
目の前で展開されている非現実を、そのまんまの有り様で、黒崎は淡々と言ってくれるだけだった。
「荒生田さん、いつもこがん私たちばよんにゅ(佐賀弁で『たくさん』)驚かせてくれるばってん、今回はまたがばい強烈ばいねぇ☆☆」
勝美も黒崎に負けず劣らず、冷静に現実を受け止めていた。
「やっぱ店長たちって、凄かですっちゃねぇ〜〜♋ ついでに……♋」
ふたり(黒崎と勝美)のあまりの平静ぶりで、孝治は未来亭を仕切る人物たちの内面が、なんだかますますわからなくなる思いがしていた。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |