『剣遊記12』 第二章 巨象に乗った戦士たち。 (12) 博美が号令を掛けて、出発を宣言。またラリーもパオーーッと元気な声で吠えながら、ゆっくりと大きな四本の足を前進させた。足元にいるサングラスの戦士を、完全に視界の外に置いた格好で。
「こ、こらぁ! ここにオレがおるとやけぇ!」
そんな有様だから、見事荒生田が、ラリーの足に踏まれてしまったわけ。
「むぎゅうっ!」
だがそれでも、この変態戦士は生きていた。
「ちゃんと前ば見らんねぇ!」
ふつう死ぬぞ、こげな場合。
こうしてひとり、象に乗っていない荒生田が、慌ててラリーのあとを追って走るという、実に情けない格好。
「くぉらぁ! オレば忘れんやなかぁ!」
いくら創作話でも、回復が早過ぎ。もちろん博美も、これに気づいていた。
「いいのか? あきさみよー(沖縄弁で『なんてこった』)って感じやしが、あにさー乗せねえで?」
だが博美に応じる孝治は満面の笑みを浮かべ、得意の嘘八百で答えてやった。
「よかよか♥ 先輩はあれで足腰ば丈夫やけ、日本中ば走り回ったりしたって、いっちょも平気っちゃね♥ そうっちゃね、裕志✌」
「う……うん☁」
孝治は(早くも)青い顔をしている裕志を、強引に味方とした。乗り物酔いは、やはりと言うべきか。
「まあ、いつもこげな調子っちゃけど、今回も先行き不安ってとこやねぇ☻」
『あたしもそげん思うっちゃよ☻』
ラリーの背中の一番うしろのほうに座っている友美と、体重なしで真上をプカプカしている涼子が、この慌ただしい光景を眺めてささやき合っていた。
ついでに場所は離れるが、荒生田がどこまでもラリーを追って走り続ける絶叫が、見送る勝美と黒崎の耳にも届いていた。
「店長……ほんなこつ、今回の人選に問題はいっちょんなかったんでしょうかねぇ?」
「まあ……なんとかなるがや。あいつらのことだからな……」 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |