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『剣遊記12』

第二章 巨象に乗った戦士たち。

     (11)

 それから孝治は、すぐに急に気がついたりした。

 

「うわっち! せ、先輩も乗りますけぇ?」

 

 肝心の荒生田を忘れていたのだ。

 

「ゆおーーっし! オレもそこ行くっちゃけ、ちょっと待っちょけぇ!」

 

 無論荒生田も、乗る気充分でいた。まさにきのうの酒など、この男はまったく関係なし。

 

「おいラリー! オレも上げちゃってやぁ!」

 

 本来の主人である博美を差し置いて、荒生田が勝手にラリーに命令した。だけれど博美は豪傑でありながら、ここでも性格が寛容であった。

 

「ほらラリー、あにさーも乗せてあげりんどぉ♐」

 

 博美の指示にパオーーッと声を上げ、ラリーが背中に孝治たちを乗せたまま、四本の足を曲げて地面に腹を付けた。これにて荒生田は簡単に、ラリーの背中の上へ乗れたわけ。

 

「では、御免するっちゃね♡」

 

「うわっち!」

 

 ところが象の背中へと上がるなり、荒生田がチョコンと腰掛けた場所。それは他ならぬ、孝治の膝の上だった。

 

「ちょ、ちょっと先輩! 座る場所が違うでしょうが♨」

 

 このあまりにも強引な話の展開で、孝治はたちまち狼狽気味。自分の膝に図々しく座っているサングラス😎野郎相手に、裏声を上げてやった。だけど、この変態には通じなかった。

 

「なははははっ☺ まあまあ象の背中っちゅうたかて、五人も座ればさすがに狭くなるっちゃけぇ☟ やけんここは少々無理ばしたかて、お互いに協力し合って座る場所を作るしかなかろうも♥」

 

 けっきょくいつものとおり。どこからどのように聞いても、説得力皆無の妄言を吐くばかり。

 

 確かにラリーの背中に五人(孝治、友美、裕志、荒生田、博美。涼子は例外)も乗れば、これはこれで、けっこう窮屈な感じになっていた。

 

 ただし――であった。

 

「やけんって、先輩がおれん上に座るこたぁなかでしょうがぁ!」

 

 孝治は再び裏声でわめいた。実際にお互い協力し合えば、人と人が重なり合う必要など、まったくないのだから。

 

それでも相変わらずだった。

 

「ええから、ええから♥ 孝治かてオレの後輩のひとりやったら、たまにゃあ先輩様んために尽くしてみるのもええもんばい♡」

 

 などと訳のわからない屁理屈をこね、荒生田は孝治の膝に居座り続けた。これには孝治の堪忍袋が、早くも大爆発五秒前の状態。もともと短気な一面もあったのだけど。

 

「こん野郎ぉ! 乗りたかったんは象の背中やのうて、おれの膝が本命やったとでしょうがぁ!」

 

 とにかく、あっさり頭に血が昇った孝治の右足蹴りが、見事荒生田の尻に、ガスッと炸裂!

 

「あひぃーーっ!」

 

 悲鳴を上げて、荒生田がラリーの背中から、ドスンと落下(ラリーはとっくに立ち上がり済み)。

 

「今んうちです! 早よ出発してぇ!」

 

「おう! でもくりん行ってぬーがや?」

 

 孝治に急かされた格好の博美が、ラリーの頭の上で、自分の頭を左に傾げていた。

 

それでも決断は早かった。

 

「よっしゃあ! ラリー、ちばって行くぜぇーーっ!」


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