『剣遊記 番外編X』 第三章 巨大怪獣、神戸港に出現! (9) 「ゆおーーっし! やっちょう、やっちょう☆☆☆ 見るっちゃ、オレん言うたとおり、簡単やったろうも♡」
神戸市の現在の惨状を、このとき空の上から高見の見物している一団があり。
言わずと知れた、荒生田様御一行である。
「確かに簡単な方法なんさぁ☢ だからあんまり簡単過ぎて、簡単にこれに気づかんかったあたしって、本当にバードマンなんかい?」
その一行の中で、自前の白い翼で空を飛行している静香は、なんだかむくれ気味の顔をしていた。
「こうしてみんなで空さ飛んで行くんだったら、初めっからそうすりゃ良かったんだべぇ♨ あたしなんだか、自分がなっからヌケてるみたいに思えるだにぃ☢」
「まあまあ、そげん自分ば自己嫌悪せんでもよかっちゃやない☻」
そんな静香を鼻で笑っている荒生田は現在、後輩の裕志といっしょ。全身が銀色に輝く、ドラゴンの背中に乗っていた。
「どうある? ここなら神戸の街、こが〜に見放題のことあるわや☟」
シルバードラゴンが人の言葉、それも野伏である到津の声で話しかけてきた。
まあ、知っている者の間ではすでに有名――特に未来亭の面々は全員が承知済みであるのだが、到津(人間バージョン)のほうが銀色の体色が自慢である、シルバードラゴンの化身した姿なのだ。
もっとも静香だけは、今回初めて到津の変身をお目にしたわけ。しかしなぜだか、彼女の態度は、ドラゴンの登場で特に驚いている感じはなかった。その理由をすぐに、自分自身で言ってくれた。
「ほんとならこんなとき、到津さんの正体を見てもっとなからビックリしなきゃいけんのぉ、あんときの夜からもっとなからデカいバルキムっとか、それに今も下の街にまあずデカい怪獣がいるけい、なんかどうしてもおおか(群馬弁で『大した』)見劣りしちゃうなんさぁ〜〜☁ ほんとにこんな場合じゃなかったらさぁ、もっとすなおに驚いてあげられたんだんべぇ☢♋」
要するに巨大生物登場の連続で、今や瞳が完全に慣れているわけ。そんな自分の心境を、静香が正直そうな顔付きで申告してくれた。
「ま、まあ……ワタシも皆さん、あが〜にピクリさせる気ないあるよ☁ そが〜に気にしなくていいあるね✄」
これには銀のドラゴン――到津のほうも、口では達者に返しつつ、端から見れば完全に拍子抜けの内心が感じられていた。
ところでくわしい説明が遅れて申し訳ないのだが、現在このようにして神戸市の上空を飛行している者たちは、巨大なコウモリ型の翼で空を飛ぶ銀色のドラゴンと、やはり自分自身の純白の、こちらは鳥型の翼で飛んでいる、バードマンの静香のみ。またドラゴンの背中には、先ほどからの紹介済みではあるが、荒生田と裕志の御両人が跨っていた。
「まあ、どげんだっちゃよかっちゃろうも☺ 空ん上からやったら誰からも邪魔ばされんで、思う存分に見物……やなか、現場指揮ができるっちゅうもんやけねぇ☀ なあ、裕志よお!」
すでに荒生田は、ちょっとした英雄気取り。ドラゴン――到津の背中に陣取り、いつもの調子で天狗になりきっていた。そんなサングラス戦士が、自分のうしろで控える裕志に、大声で吠えまくった。
高い空の上なので、荒生田のドラ声と気分は、自然と高めの絶好調。煙突の煙となんとかは、高い所がお好き――の見本と言うべきか。
ところが、完全テンション高め状態である荒生田とは対照的。先輩に応える裕志のほうは、これが見事、声の搾{しぼ}り出しがやっとの有様でいた。
「うへぇ〜〜い……☠」
まさに青息吐息の状態。要するに裕志は、いまだドラゴンの背中が大の苦手のまま。以前にも経験した高空酔いが、今回またもや再発したようなのだ。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |