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『剣遊記 番外編X』

第三章 巨大怪獣、神戸港に出現!

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「大丈夫? 裕志さん、なっからじんばら(群馬弁で『ずいぶんとお腹』)から吐きそうな顔してるだがね☁」

 

 裕志の苦難的状況を見た静香が、心配そうな顔になって、ドラゴン――到津の背中まで飛んで近づいてきた。到津もまた、長い首でうしろに振り返った。

 

「ちょ、ちょと裕志さん! せつい(島根弁で『苦しい』)みたいけとワタシの背中の上て、もむない(島根弁で『まずい』)ほとモトさないてほしあるね♋ ワタシこれても、こが〜に綺麗好きあるわや♋」

 

 それから大慌て丸出しな感じで、翼を大きく上下に羽ばたかせた。しかし裕志のほうは、誰が見ても不安をさらにかき立てるような顔色だった。

 

「う、う、う……ん、だ、大丈夫……☢」

 

 これのどこが『大丈夫』やら? それでも精いっぱいの空元気を演じて、裕志は静香と到津を相手に、いかにも苦しそうな引きつり笑顔で返してやった。

 

 もちろん後輩のこのような苦境など、それこそ心底から気にもかけない荒生田であった。

 

「ゆおーーっし! こん辺りでよかっちゃねぇ☆☟」

 

 裕志の現在の状況など、一切我関せず。いつもと変わらぬ威勢の良い雄叫びを、荒生田は半病人がうしろにいる事態中でも張り上げた。

 

 六甲山の山中から飛び立って数刻。自分たちが神戸の市街地上空に達したところを見計らい、荒生田はうしろでへたばっている魔術師に振り返った。

 

「おい、裕志☆」

 

「は……うはぁ〜〜い☢」

 

 裕志の顔は、地球と同じように青かった

 

「オレたちのバルキムは、ちゃんとついて来よんやろうねぇ☚」

 

「は、はあ……たぶんついて来よるっち……思います……です、はい☠」

 

「ゆおーーっし!」

 

 裕志の人格を持った超獣バルキムは、今現在も地底深くを潜行中のはず――である。

 

 自分たちが地上にいるときは震動その他で、なんとかその存在を確認できていた。だが空の上からだとさすがに、地下の様子を調べるなど不可能。だけどまあ、バルキムにはただまっすぐに南に向かって掘り進めと言ってあるので(東西南北は理解できているようなので)、裕志の人格どおりに馬鹿正直な性格であれば、荒生田の思惑どおり、すでに神戸市の地下にまで達している予定。

 

「ゆおーーっし……はええとしてやねぇ、ずいぶん自信なかぁ〜〜って顔ばしとんやねぇ、裕志はよぉ☠ とにかくそろそろバルキムば出して、あの怪獣と戦わせんしゃい♐」

 

「は、はぁい……☁」

 

 ここでもやはり、人格を分けたバルキムと同じ。馬鹿の二文字が付く正直な姿勢で、裕志は荒生田のほとんど命令に近い指示に従った。ところが次の瞬間、小心魔術師はもしかしたら重大――かもしれない事態に気がついたりした。そこで裕志は、荒生田に恐る恐る尋ねてみた。

 

「あのぉ……☂」

 

「なんや? 今んなってから☛☹」

 

 いかにも面倒臭そうな顔になって、先輩戦士が応じてくれた。

 

 裕志は言った。

 

「実はバルキムば出せっち言われたかてぇ……空ん上から地面ん下におるあいつに、いったいどげんやって『出てきて⛐』っち言うたら聞こえるとでしょうか?」

 

「ぬわにぃーーっ♨」

 

 荒生田の三白眼が、見事な点になった。


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