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『剣遊記 番外編X』

第三章 巨大怪獣、神戸港に出現!

     (7)

 場面は変わって、ほぼ無人のゴーストタウンと化した、神戸の中心市街地。ここでは今まで見た記録も聞いた経験もないような大怪獣を相手に、兵庫県を統括する任務を受けている度戸{どと}公爵の私設軍隊が、弓矢やカタパルト{投石機}などの兵器を使っての応戦を繰り広げていた。

 

 ただし元より勝利など、もろあきらめの御様子。実際ひと目で見ても明らかなほど、兵隊たちの士気はドン底の有様だった。

 

「巨大生物なんぞ、高が畜生の分際! 眼や! やつの眼を狙わんかぁーーい!」

 

 金属甲冑で身を固めている公爵が、いくら声を枯らして発破をかけたところで、負け犬根性に成り下がっている兵士たちの戦意は、まさに最低そのもの。

 

「やぁ〜〜☹」

 

 隊列を組んで弓兵たちが矢を放っても、それは怪獣の胸の位置までも全然及ばなかった。放たれた矢はなんの効果も威力も発揮せず、ただ力を失ってパラパラと、道路上に散乱するだけ。

 

 また投石部隊も最新のカタパルトを駆使して、怪獣の顔面に照準を合わせ、大岩を投げ飛ばしていた。

 

 しかし、怪獣の右肩に鎮座している尾田岩は、この奮戦模様を鼻で笑っていた。

 

「ふん☠ そないなチンケなもん、蚊が刺したほうが、よっぽど効くってもんやさかいになぁ☻☻」

 

 まさにそのとおり。ビューーンと飛ばされた大岩を、大怪獣――ガストロキングが鼻息ひとつで、軽く反対方向に吹き飛ばしてやった。

 

 その流れ弾でガッシャアーーンと、逆に周辺の建物に被害が広がるばかり。現実に今もまた、怪獣を狙って放った大岩が、通りにそびえる洋風建造物――異人館みたいな所――の窓に飛び込んだのだ。

 

「こ、公爵殿! だ、駄目です! 怪獣の体がデカ過ぎて、わいらではまったく太刀打ちできまへぇ〜〜ん☂」

 

 たった今、目の前で自慢だった最新式カタパルトを怪獣によってグシャッと踏み潰された現場指揮官が、恥も外聞もなく、自分の雇い主である公爵に泣きついた。

 

「うぐぅ……おのれぇ……♨」

 

 これに対し、もはや具体的な指示も下せない有様。度戸公爵が歯噛みをするような顔つきになって、自分の歯を本当にガチガチと鳴らしていた。

 

 この間にもガストロキングは、まさに傍若無人の振る舞いそのまま。神戸市の中心街を、その巨体と両腕の凶器を持っての、蹂躙し放題。次々と木造や石造りの建造物が破壊されていった。

 

「や、やめえーーっ! この街はわいの街なんやでぇーーっ!」

 

 貴族の威厳も誇りもかなぐり捨て、公爵が大きな声で泣き叫んだ。先ほどの指揮官と、まったく同じ様相になって。

 

 これで配下の者たちが体を抑えて公爵を止めに入らなかったら、彼はそれこそ我を忘れて、怪獣の前まで飛び出したに違いない。

 

 無論そのような地上の叫びや嘆きなど、ガストロキングはおろか、復讐心で凝り固まっている尾田岩の耳には、まるで届いていなかった。そのためでもないが、ここでまた一台、ドッグァッシャーーンと、カタパルトが怪獣の巨大な右足で踏み潰された。それも度戸公爵のほんの目の前で。

 

「ひ、ひえーーっ!」

 

 公爵がこれにて、たちまちの大失神。最高司令官を失った現場指揮官は、ただちに部下たちに向けて絶叫した。

 

「ぜ、全員、退避や、退避ぃーーっ! わてらではとうてい歯が立ちまへんでぇーーっ!」


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