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『剣遊記 番外編X』

第三章 巨大怪獣、神戸港に出現!

     (6)

「ちょ、ちょっとぉ! どうしてなんじゃねえのに、あたしたちが逃げなきゃならんかぁい?」

 

 一応離れた所まで走ってから、男勝りの性格である静香が、荒生田に文句を言い立てた。これに荒生田は別段、くやしそうな顔をしているわけでもなし。それどころかなんだか、楽しそうな笑みを、口の右端に浮かべていた。

 

「まあまあ、ここで衛兵隊の連中に付き合って、無駄な時間ば潰しちょう場合やなかけんねぇ☎ まあ神戸ん街はこっからだけやのうて、他にかてどっからでも入れるっちゅうもんばい……例えばやねぇ☞☜」

 

 静香相手に不適な態度でほざいてから、荒生田は神戸市の方向ではなく、晴れ渡っている青い空のほうに目を上げた。

 

 どうやらこのサングラス😎男は、胸の内で、なにやら企んでいるご様子っぷり。その思いを薄々に感じながら、荒生田以外の三人(裕志、静香、到津)は、遥か後方に見える衛兵隊に目を向けた。衛兵隊のほうは、これ以上ふつうの旅人風(?)である荒生田たちに関わる気は、まったくなさそうだった。まだ見える位置にいながら、四人を追い駆けるなどの愚行を、一切犯そうとはしなかった。

 

 確かに怪獣出現という、超緊急事態かつ超異常事態の渦中なのだ。そのような非常時に、いったい誰が、小さなチンピラごとき、まともに付き合っていられるだろうか。

 

「ま、まあ……これであたしたちが衛兵隊に捕まるっていう、最悪はなさそうだんべぇ……でもこれからどうするかい☹? もしかしてこのまんま逃げるんきゃ?」

 

「やきー、そげなんやなか♋♨」

 

 なおも続く静香の疑問を、荒生田はひと言で一蹴してやった。

 

「オレたちゃ地面ば歩かんかて、他に神戸まで行ける簡単な方法ってもんがあるっちゃろうが♐ それに怪獣同士の決戦場っちゅうのは、市民が全員逃げたあとの、無人ちなっとう都会のド真ん中っちゅうのが、昔っから相場ば決まっとるんばい✍ そしてそん準備は万全なんやけね✌」

 

「言ってる意味が、まあずさっぱりなんさねぇ?」

 

 そんな風で、困惑丸出しの静香であった。しかし荒生田は構わず、ただひたすら、なにやら自分の持論に向かって、どうやら暴走気味の状態でいるようだ。


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