『剣遊記 番外編X』 第三章 巨大怪獣、神戸港に出現! (3) 以上までが、荒生田たちが丹波の山奥から、南の神戸市に向かう最中で起きていた出来事の顛末。
その後一行は、すれ違う避難民たちから次々と新しい情報を入手しながら、地底深くにバルキムを潜行させて、神戸市への道のりを急いでいた。
「なっから大変なことになったもんだよぉ♋☆」
などと、口では緊張感を演じてみせても、その実静香の表情には、内心のワクワク感が抑えられない――という気持ちがありありでいた。また反対で到津は、こちらはこちらで心配感丸出しの顔。
「逃けてる皆さんたちのしわい話からすると、今度の怪獣さん、パルキムさんよりおぞいほど大きそうあるね♋ パルキムさん、はぁ〜〜わしゃ〜〜やれんわ〜〜ってなことにならないあるね?」
それから自分の右に並んでいる裕志の横顔を、先ほどからチラチラと、覗いてくれるばかり。もちろん当の小心魔術師は、もろに青い顔付きと心境になっていた。今のところ、ひと言もしゃべっていない態度が、その表れであるようだ。自分自身が戦う必然性は無いのだが、それでも人格を分け合った(?)バルキムが、彼自身もなにもわからないまま、死の決戦場へ駆り出されようとしているわけ。もしかすると、自分の分身(すでに心境的に、ここまで到っている)がこの戦いで、最悪の場合命を落とす結果になるのかもしれない。そのように考えるだけで、裕志の心臓はもう、張り裂けんばかりにバクバクの状態なのだ。
ところが後輩のこのような不安極まる思いなど、超楽天家である先輩には、まったく関係のない話。
「ゆおーーっし! よかよかぁ☀☆ いよいよ事態ば急展開で盛り上がってきたっちゃねぇ☀ これはますますオレたちん任務が、でたん重要になったってもんばい♐ なあ、裕志よぉ✌」
すっかり防衛隊の隊長――ついでに正義のヒーローの『おやっさん』気取り。青い顔をしている後輩の、かなりに猫背気味な背中を右手でバシッと、思いっきりにひっぱたいてくれた。
「あ痛っ……は、はぁ……い……☢」
裕志はまるで気合いの入っていない返事で応じ返すだけ。そのついで、次のように考えてもいた。
(こげんなったら……ほんなこつやるしかなかっちゃねぇ……って、ほんなこつ大丈夫なんやろっかねぇ……ぼくのバルキムはぁ……なんちゅうたかて、ぼくの人格なんやけねぇ☢ 我ながら気が弱いっちゃけぇ……☁) (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |