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『剣遊記 番外編X』

第三章 巨大怪獣、神戸港に出現!

     (1)

 西日本を代表する経済最重要地区。大阪湾神戸港沖の海上。

 

 突如おだやかだった海面を、まさに切り裂くかのごとくだった。異常極まる高波が、最新鋭の帆船でも敵わないスピードで、水平線の彼方からドドドドッと押し寄せてきた。

 

 その波頭の先には、国際貿易港――神戸の市街が広がっていた。

 

 しかも海面から、突然だった。ピカッと海底火山の噴火を連想させるような水柱が噴き上がり、その飛沫{しぶき}を断ち割って、黄色く光る光線状の光の帯が、ビューーと水中から飛び出したのだ。

 

 帯型の光線は明らかに狙い撃ちで、スッガッグァァァガガァァァァァァァァァァン! ドドドドドドドドドドドドドドドドッ! ザッババババババアアアアアアアアアン!――と市内中央にそびえ建つ、高層建築のビルに命中! 大爆発とともに、ガレキや破片が周囲にばら撒かれた。

 

「きゃあーーっ!」

 

「な、なんやぁーーっ!」

 

「早よ逃げるんやぁーーっ!」

 

 いったいなにが起こったのか。正常に判断する余裕もなし。神戸の市民たちが一瞬にして我を見失い、爆発の現場から、一斉に逃げ出そうとした。

 

 このすぐあとだった。

 

 グギャオオオオオオオオオオオオオオオオン!――と、惨劇を引き起こした張本人が、巨大な咆哮を大阪湾全体に轟き渡らせた。

 

「な、なんや、あれは!」

 

 逃げようとしていた市民たちが、いったんその場で足を停めた。それから声が聞こえた方向に、思わずだが顔を向けた。

 

 今、大阪湾に高波と大渦潮を巻き起こしながら、途方もなく巨大な――それも生物の正常な進化の過程からは絶対に考えられないはずである異形の大型獣が、その上半身を海面上に現わしたのだ。

 

 余談だがこれにて、『張本人』の表記は間違い。『張本獣』と言い直すべきであろう。

 

 それはとにかくとして、巨大生物の顔付きは、誰もが博物館でしか見た経験がないはずだが(それも骨だけの化石)、白亜紀の暴君竜――ティラノサウルスそのものだった。

 

 さらに頭頂部には、前方に湾曲している大型の赤い角。

 

 右腕には鋭利な鎌。

 

 左腕には鞭を思わせる、長い触手。

 

 体色は全体的に緑色で、たっぷりと横幅がある腹部の真ん中には、巨大な花(世界最大の花『ラフレシア』のようだ)によく似た、大きな赤い口(ビッシリとひと回りの牙付き)がポッカリと開いていた。

 

 これはやはり、正常な進化からは絶対に生まれ得ないはずの大怪物としか、他に形容のできない、まさしく悪夢の具現化であった。

 

 このようなおぞましい姿を見てしまい、それによって人々が行なえる反応は、ただひとつ。

 

「か、怪獣やあーーっ!」

 

 初めの惨劇を免れた多くの神戸市民たちが、さらに登場した巨大怪獣の姿で、瞬時にパニックとなった。そのまま先を争って、港から遠くのほうへと逃げまどった。


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