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『剣遊記11』

第四章 密猟王黒ひげ。

     (9)

「あの洞窟の辺り……あそこが怪しいっぺぇ?」

 

 こちらも視力には断然自信の浩子が、岩場に急接近しながら沙織に訊いた。

 

「泰子もそう思ったのぉ!」

 

 沙織が風に向かって、少し大きめの声で尋ねた。絨毯が今度は、ふわりと大きく上下に揺れた。これがどうやら、相槌の意味であるらしかった。

 

「ねえ! だけんがあそこにおるんがグリフォンだったら、これ以上近づくのは、あてこともねーくれえ危なくないっしょ?」

 

 グリフォンの獰猛ぶりは、世間一般によく知られた事実である。これにて怖さを感じたらしい浩子が沙織に訴えるのだが、天下御免の女子大生は、なおも強気の押し出し中でいた。

 

「いいえ! ここはちゃんと確かめないと、帰ってから報告することができないわ! ここはちょっと危なくても、きちんと調べておきたいの!」

 

「もう……わかったべぇ♋ だけんがその代わりっしょ、ちらっとでもグリフォンが見えたら、おんだらすぐに逃げんべぇ!」

 

 沙織が言い出したら人の意見を聞かない性格は、長きに渡る友達付き合いでよく知っていた。浩子は半分あきらめの境地になって、岩場への急降下を決行した。

 

 空を飛べる翼を有する者同士ではあるが、ハーピーのほうが小柄な体格の分、飛翔能力や小回りにおいて、グリフォンよりもかなりに優れ気味であった。だからもし、いざと言う場合には、火事場の底力を発揮して逃げれば良し。

 

 またシルフの飛行速度に至っては、世界中を捜しても彼女らに勝る者――あるいは乗り物は存在しなかった。

 

 これらの自信を踏まえてか。三人は実はかなり、事態を楽観視してもいた。岩場では悪意を満々に抱いている連中が、彼女たちを今か今かと待ち受けているのも知らないままに。


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