前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記11』

第四章 密猟王黒ひげ。

     (10)

「親分、なんでかはちょっこしもわかりやせんが、あのちぇーやつら、ちかっぺこっちに来て飛んでるっしぃ☝」

 

 もはや目視で様子を探っている槍藻が、片時も絨毯に乗っている美少女とハーピーから顔を背けないまま、親分の煎身沙に報告した。それを聞いた煎身沙は、端から見ればいやらしいとしか見えないような、してやったりの顔でうなずいた。

 

「理由なんか知ったことじゃねえっしぃ♡ とにかくこれは、たんまで願ってもねえチャンスざぁ✌ オレたちで折尾の野郎をおびき寄せる手間が要らんざぁ✌」

 

「で、こんあとどうするってな?」

 

 そばで控える冷素不{れすぷ}が尋ねると、親分は自慢の黒ヒゲを、もしゃもしゃと左手で扱い回した。

 

「そうだしぃ……もっと、おもっしぇえことしたいもんざぁ……♪」

 

 そうやってしばし考えを巡らせてから、煎身沙がポンと、両手を打った。

 

「よっしゃ♥♐ あのちぇーのが降りてきたら、ここはグリフォン狩りに用意しねま、投げ網を使うんが一番しぃ✌ あいつらがちょっきり地面に降りたら、すぐに網をかけて捕まえるっしぃ✄」

 

 深く考えているポーズの割には、あまり大した策ではなかった。しかしそれでも、効果は抜群のはず――あくまでも沙織たちが都合良く着地したらの話であるが。

 

「すぐ用意にかかるっしぃ! しな〜っとしてしてっど、チャンスを逃がししとぅんたってことになるっしぃ!」

 

「へい、親分!」

 

「合点承知!」

 

 親分――煎身沙の命令で動く子分たちは、やはり俊敏そのものだった。

 

 長い山暮らしのおかげもあるのだろう。だが実際に、これくらいの統率力と機動性が無ければ、獰猛で名高いグリフォンの密猟など、とてもできない相談なのだ。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system