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『剣遊記11』

第四章 密猟王黒ひげ。

     (7)

 話の成り行きはともかく、沙織たちの山岳地帯上空飛行は続いていた。だけど眼下の光景は、変化に乏しいが広大に続く森林地帯ばかりであった。

 

「おいねぇ(千葉弁で『駄目な』)ぐれえ見れんべぇ〜〜✄ どこおるかしぃ、グリフォンはぁ?」

 

 浩子には早くも、飽きの感情が湧いていた。

 

「ここってほんと、グリフォンの産地おいさ? だけんがさっきから、影もかたちも見えんだで♨」

 

「わたしに訊かれたって困るんだけどぉ……☹」

 

 飽きがきている気持ちは、沙織も同じ。彼女は絨毯の上で、必死にアクビを噛み殺していた。でも駄目だった。

 

「ふぁ〜〜あ〜〜……だって、折尾さんが言ってたことだもん☹ 考えてみたら、たったそれだけの根拠でわたしたちって、ここ飛んでるのよねぇ〜〜♠✈」

 

 つまりが退屈の原因を、キャラバン隊隊長のせいにしているわけ。

 

「そうだいねぇ☁ ほいであたしたちって、保護してるはずのグリフォンを、まだ一回も見せておいないまんまっしょ☹ そもそもあの折尾って人、信用できるんいぇー?」

 

 そのようにつぶやく浩子の表情には、今回の冒険依頼人に対する不信のような感情が、少なからずめばえ始めている感じがしていた。しかし沙織はその言葉を耳に入れるなり、頭を左右にブルブルと振った。

 

「折尾さんはとにかく、帆柱さんは絶対嘘なんか吐かないわよ☆ だって、このわたしが好きになった人なんだもん♡♡」

 

 さらに瞳までもウルウルとさせながら、空中で場違いにのろけているばかり。

 

「まあ……勝手に幸せやってしょ♨」

 

 浩子が舌を出して、嫌味を返したときだった。沙織の乗っている絨毯が、突然右方向への旋回を開始した。

 

「あら? 泰子ったら、どうかしたの?」

 

「泰子もあてこともねー沙織に呆れてっぺぇ☠」

 

 浩子の茶々には、この際構わず。沙織は風――泰子の様子が只事ではないと感じられた。

 

 すでにご承知のとおり、絨毯を飛行させている原動力は、風に変身中の泰子なのだ。その彼女も沙織からの要望を請け、浩子といっしょに上空偵察を続けているのだが、どうやら地上のあるなにかに気づいたらしかった。

 

「あっちの方向になんかあるのね☜」

 

 絨毯が向かう、進行方向から見て右の先――沙織の眼前には、周りの森林地帯からは隔絶されている。巨大な岩場が広がっていた。おまけにその岩場の所々には洞窟の入り口を思わせる、黒い点々までもが垣間見えていた。

 

「もしかしたらあのほら穴にグリフォンが棲んでるのかしら? 泰子もそう思ったわけ? あっと!」

 

 風の状態では返事の戻しようもないが、絨毯を軽く上下に揺らす意思表示が、その返答のようであった。

 

「あじしたぁ? だっけんがもっとゆっくり飛んでんいぇー☢!」

 

 翼こそ立派に備えているものの、飛行速度ではさすがのハーピーも、シルフの風には遠く及ばなかった。

 

 あとから一生懸命浩子が追い駆ける前方を、沙織の乗る絨毯が岩場を目指し、かなり際どい角度での急降下を始めていた。


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